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「…もう、本当にこんな自分が嫌になるわ」
これから先のことをどうしても決断できずに苦しくなってしまったディーナは、真夜中にも関わらず今日もまた教会を目指すことにした。顔見知りの御者はお腹が大きくなってきたディーナに何かあったらと不安そうにしているものの、少しだけだからと説得して教会を目指してもらう。
ディーナはそうして揺れる馬車の中でぼんやりと外の景色を眺めているのだった。
「旦那様はいつごろ戻るのかな」
教会へと向かう馬車の中で、ディーナはぽつりと御者が漏らした声を聞く。「そうね。いつになるかしら…」なんてディーナが困ったように返答すると、御者が乗っている方からバタバタとした慌てたような音が聞こえてきた。
「あ、いやっ、すみません、口に出てたなんて!だ、大丈夫ですよ!!!奥様がこんなに教会で祈りを捧げているのですから、きっと神様も聞き入れてくれるはずです!!」
御者の焦った声を聞きながら、ディーナはありがとうと返事を返す。ジュールが本当に病気に苦しんでいると信じている身近な人たちにも嘘を吐かなくてはいけないことは、ディーナにとっても息苦しく感じるものだった。
いっそのこと「夫は愛人が出来て追い出したから、別の屋敷に住んでいるの」と最初のうちに話していた方がずっと良かったのかもしれない。彼が戻ってくるなんてことはないと広めて、もう二度と顔を合わせることはないだろうと素直に話してしまえば良かったのだ。
「あ、…あああの!だ、旦那様の病気が治ったら、皆さんで海に行きませんか?うちの奥さんの生まれ故郷なんですけど景色が本当に良くて…あと、僕の料理もご馳走させてください!僕、この料理でうちの奥さんを夢中にさせたって思っていて、ぜひ奥様たちにも食べていただきたいんです!」
「…えぇ、素敵ね」
「それにうちも子供が生まれたばかりなんです!それがもう本当に可愛くて可愛くて!それに、うちの奥さんが…」
それから、ディーナは元気づけようと話しかけてくる御者の話を、バレないように涙を拭いながらも聞いていた。御者の言葉からも奥さんを愛していることが伝わり、本当に素敵だった。
どうして、こんな風に普通の愛し合う夫婦になれなかったのか?
思い当たる後悔がいくつも大きくなっていき、ディーナの胸は酷く痛むこととなった。
暫くして教会に着き、ディーナは御者に先に戻ってもらうことにした。こんな夜遅くに待たせるのも申し訳なく、帰りは明るくなった頃に近くで馬車を手配すると話しをする。
「ちょっと待って…えっと、これあなたと奥さんに。いつか、あなたの素敵な奥さんと赤ちゃんとも会わせてね」
そう言って御者の手に金貨を握らせると彼は驚いたようにしながらも、帽子を取ってすぐに頭を下げる。その後、彼が見せたはにかんだような笑顔に、ディーナも少しだけ心が温かくなるように感じた。




