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暫くして、ディーナのつわりは一段落したようで少しずつ体調も良くなっていった。最近では息子たちを連れてピクニックにいったり、一緒に次の子のための服やおもちゃを用意したり…そんな日々は驚くほどに平和で穏やかだった。
思えば、上2人の出産の際は仕事だけでなく、ジュールが起こしたトラブルや勝手に引き受けてきた契約に振り回される日々を送っていたのだ。息子たちと共にゆっくりのお腹の子を考えながらも過ごせる日々は、ディーナにとっては新鮮で…それでいて幸せな時間だった。
ただ、そんな日々の中でも不安なことは1つだけある。
(もし…もしも、自分が出産で最悪な結末を迎えた時、残された子供たちのことを考えなければいけないわ)
2人目の出産の際に生死の境を彷徨うことがあったディーナ。両親にはジュールを追い出した事情などを話していることからも、万が一のことがあれば子供たちを引き取ってくれるだろう。
更には、侯爵家のうちジュールがベルを連れ込んだことを知っている一部の使用人たちも、既に普通よりもずっと多い口止め料を渡して、ディーナの実家のある伯爵家で働けるように手配した。信頼できる使用人が多いことからもベルの件が彼らの口から漏れないとは思えないが、なにかあれば両親が手配してくれるだろう。
自分が亡くなった後に、子供たちがあの愛人のことで苦労することなんてないよう…今はするべきことが山積みなのだ。
「…後は、私が選択するだけね」
ディーナは眠ってしまった息子たちの寝顔を見ながら、ここ最近ずっと答えが出ないでいることを考えることとする。
この先、ジュールとの関係をどうするのか?
ジュールが愛人を作ったことを許して屋敷に戻ってもらい、ディーナが亡き後も家や息子たちを守っていける体制を今のうちに作ることだってできた。
ただ、ディーナはお腹の子が生まれるまでにあの人が変わるなんてことを想像できなかった。それに万が一、ベルと共にあの人がこの屋敷に戻ってくるなんてことはあってほしくなかった。
ならば、選ばなきゃいけないのは2つ目の選択肢だろう。
””ジュールと離婚して、後を任せられる男性と再婚する””
今考えられる最善の方法がそれだった。
ただ、ジュールと離婚するにしても厄介なのは、ディーナがジュールと離婚したとしても現在の侯爵家当主の座はジュールにあることである。ジュールには離婚を受け入れてもらい、それでいて侯爵家当主の座を明け渡してもらうのに満足いく条件を出さなきゃいけない。
きっと出産前に一度、ジュールとは直接話さなければいけないだろう。彼が何を望み、ディーナが何を差し出せば離婚と地位を差し出してくれるのか?
(でも…自分で計画しておきながら本当に嫌だわ。どうしてあの人が、愛人と共に住んでいる屋敷を訪れなきゃいけないの…?)
それにきっと、ジュールに会いに行けばお腹の子のことも話さなければいけなくなるはずだ。その時、彼にどう反応されるのか…想像すらしたくない。
(あの人がもう二度と、私に振り向いてくれるはずないのに…)
顔だけ良くて、問題ばかり起こす夫に不満もあったものの、愛する息子たちが生まれてからは彼とのかけがいのない思い出はいくつも残っている。
でもだからこそ分かってしまう。そんな自分とは違って、他の女にあっさりとハマってしまった彼はきっと私を愛してはいなかったのだろう。面倒な政略結婚の妻であり、彼にとっては都合の良い存在が私だったのだ。
「…っ、未練なんて捨てなきゃ」
時間が経つにつれて段々と大きくなっていくお腹は、ディーナの不安も一緒に膨らませているように感じていた。




