-5
その日の夜、シリルはルチアに誘われて共に食事をすることになった。人払いした部屋で、2人きりで過ごすシリルとルチア。
ここ最近、忙しくしている様子のルチアの目の下には薄くくまが広がっていた。
「久しぶりに早く仕事が終わって良かったわ。貴方との食事の時間まで段々となくなるんですもの」
ルチアはここ最近、ベルによって振り回された人々を支援する仕事をしていた。
ベルに夢中になって夫が家に帰らなくなったり、息子が家の金を使い込んだり…そんな様々なトラブルによって苦しんだ人々の相談に乗ったり、お金を支援したりとその仕事は多岐に渡った。
なにより、今回ベルが振り回したのはシリルを中心とした高位貴族たちなのである。あちこちで厄介なトラブルが巻き起こり、ルチアに相談に乗って欲しいと多くの人が訪ねてくるような状態だった。
周囲の人たちに厄介に思われ、静養中だからと引きこもっているシリルとは違い、多くの人にとって頼りになる存在のルチア。
シリルはルチアの存在が、自分ではずっと手の届かないような存在に感じていた。
(…食事を終えたら、この書類を彼女に渡そう)
そう考えながら、シリルは味のしない食事を口に運ぶ。
ベルが消え去った後から、シリルにとって食事は味のしないものに変わっていた。ルチアにはこれ以上迷惑を掛けたくて知らせていないことから、今は普通に味わっているように振舞って食事するシリル。
しかし、どれを食べても味のない粘土や砂のような感覚だった。
よくよく思い出してみれば、シリルはベルの側であの濃い花のような匂いを感じているときから、それほど何かを口にしたいとは思えなかった。
自分はやっぱりベルに出会っておかしくなってしまったのだと感じながら、シリルの心は余計に苦しくなっていくのだった。




