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「…ん…」
それは長い眠りから覚めたような感覚だった。ずっと何かがもやもやと残っていたはずの頭の中がすっきりとして、いつになく体調がいい。
シリルは自室で目を覚ました後、天井を眺めながらぼんやりとしていた。
(…あんなにも香っていた花の匂いがしない)
甘く毒々しいような花の香りがずっと自分の傍にあったことを思い出す。あれは一体何の香りだっただろうか。花の蜜に吸い寄せられるように、シリルはいつだってあの花の匂いに誘われていたのだ。
「ようやく正気に戻ったみたいね」
そんなとき、突如としてシリルに声を掛けてきたのは懐かしい人物だった。
(いや…どうしてルチアのことを懐かしいと感じるのだろう)
シリルはその瞬間、頭の中に様々な記憶が戻ってくるのを感じる。頭がガンガンと痛み、堪えきれずに頭を押さえて低い声で唸った。
「医者を呼んでくるわ。刺されたところも一緒に診てもらいましょう」
そういったルチアが部屋を出ていった頃、シリルは自分の中に一気に流れ込んできた記憶から、自分の酷い過去を思い出した。
(あぁ、そうだ。…俺は最低な男だ)
彼女にプロポーズしたときに約束したはずなのだ。決して他の女に揺らぐことはないと。ルチアだけをこれから先も愛すると、そう約束したはずなのに。
「あぁ、誰か夢であったといってくれ…」
シリルはそうして、どうしようもできない大きな後悔を抱えるのだった。




