-1 シリル視点
ある静かな夜の日、何かの物音で目を覚ましたシリルが見たのは、部屋を荒らすベルの姿だった。
愛しているはずのベルはシリルの部屋から様々な品物を鞄へと詰め込んでいる。しかし、そんな状況でもシリルは彼女に愛おしいという気持ちを抱く。
まるでリスが頬袋に木の実を詰め込むかのように、愛らしく見えたベルの姿。
ただ、その日シリルの部屋に忍び込んでいたのはベル1人ではなかった。
目を覚ましたシリルからベルを守るようにして、こちらに剣を向けてくる騎士の男。…確か彼は、数日前にシリルの騎士として着任したばかりの若い騎士だった。
「はぁ、これじゃ物足りないけどしょうがないわね」
騎士の背に隠れるようにしてそう口にしたベルは、何かを押し込むようにして無理やり鞄を締める。そうして、ベルは騎士の男に鞄を預けると、そのまま褒美とでもいうように彼の唇にキスを落とした。
その瞬間、シリルの中に嫉妬が渦巻く。
「ベルから離れろ!!」
シリルは枕元に置いていた剣に手を取ると騎士の男に詰め寄る。突然のことに男は動けなくなり、強張ったような表情へと変わるものの…2人の間に割り行ってきたのはベルだった。
「ねぇ、こんな危ないもの向けないで」
ベルが剣を持つ手に触れてきて、シリルの心臓は一気に高鳴る。彼女が近づいてくるのと同時に、甘く香る花の匂いも強くなった。
「ベル…」
シリルの体はベルへと囚われる。目の奥が少しじんじんと痛むような感覚があるものの、ベルに見つめられるとなんだってどうでもよく思えた。
「あなたの妻が悪いのよ。私だって、お金も権力もあるあなたと幸せになりたかったけれど、いつ殺されるかわからないこんな場所に長く居たくないわ」
そう告げたベルは、シリルの手から奪った剣を騎士の男に持たせる。
それからまるで促すようにして…そんな剣をシリルの腹へと突き刺した。鈍く広がっていく痛みと共に、シリルは目の前の彼女が何かおぞましい存在に思えるような恐怖を感じる。
「さようなら。私はもっといい男の元へと行くから」
痛みに悶えるシリルが最後に見たのは、共に部屋を出ていく若い騎士とベルの姿だった。
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