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第四話

「ただいまぁー」

 先に玄関へ向かっていた茜は玄関を開けると元気良く中へ声を掛けていた。

 少し遅れて大登と祖父が玄関に入る。

 大登は「お邪魔します」と姿は見えないが、祖母に向けて声を掛けた。

「お待ちしておりました」

 そう言って姿を見せたのは橙子である。

 橙子の姿を見た大登は「こんばんは」と挨拶し、「先日はありがとうございました」と年末年始に看病して貰った礼を言った。

「大したことは、何もしていませんよ」

 橙子は謙遜して言う。そして茜の足元にある大登のボストンバッグに視線が行き、そのボストンバッグに触れようとしたが、ダウンジャケットを脱ぎ終えた茜がボストンバッグを手に取って「部屋に運んでおくね」と言って小走りで二階へと去って行き、何故か橙子はムクゥと頬を膨らませている。

 大登には何が不満なのかわからない。

 奥の部屋から橙子と年の近そうな女性が出てくる。しかも五人、大登は驚いて言葉が出ない。

「大登、いらっしゃい。冷えたでしょう。お風呂で身体、温める?それとも、晩ご飯を済ませる?」

 食事と入浴、大登の中にある天秤はほぼ五分五分、しかし、後片付けを考えると先に食事を済ませるべきだろう、そう思って「食べます!」と大登は答えた。

「私たちは先に済ませているから」

 祖母は台所へ向かいながら話す。

 祖父母の家は築百年前後で外見は重厚な木造建築なのだが、中に入ると風呂やトイレ、台所などは昭和の後半に大改装したと大登は記憶している。祖父はあちらこちら痛み始めているからそろそろ改装したいと言っている。

 台所へ入ってテーブルの上に置かれた大皿には唐揚げが山のように積まれており、これを見た大登は思わず一歩引き下がっていた。

「大登、貴方、唐揚げ好きでしょ。帰るまでに、全部食べてね」

 祖母の言葉を聞いてさらに一歩引き下がる大登、そのまま戸惑っていると大登の耳元で「冗談ですよ。気になさらず、好きなだけ食べて下さいね」と橙子が囁いた。

「駄目じゃ無い。冗談だって気付くまで黙ってよって、約束したじゃない」

 身長は茜と変わらない、髪は銀色、瞳は紫色の女の子が橙子の横に立っていて微妙な表情をしている。

 大登が戸惑っていると「ほら、大登君、困っているでしょ。やめましょ」と橙子が言葉を繋ぐ。

「あらあら、まさか橙子ちゃんが真っ先に裏切るとは思わなかったわ」

 祖母がクスクス笑いながら喋るし、銀髪の女の子も「面白くないよ」と言いながら苦笑している。

 大登はまだその銀髪の女の子の名前も知らないし、祖母や橙子との関係もわからない。それ故に突っ込みを入れることも出来無いで戸惑っていると「大登、困っとるよ」と祖父が一言、呆れた表情で言ってくれた。

「大登君、気にしないで、召し上がれ」

 そう言って橙子は着席を促す。勧められるままに着席して大登は早速、空腹を満たすことにした。

 しかし、箸と取り皿以外、何も無い。橙子が取り箸で取り皿へ唐揚げを積み上げる。

「ご飯……」

 大登、本当にご飯が欲しくてポツリと言う。合わせて汁物も欲しいとも思ってる。

「今、炒飯温めますね」

 コンロに乗っている中華鍋を見ながら橙子が言いながらガスコンロの前へ立つが、そこへ金髪のお姉さんが近寄って橙子に小声で一言二言話すとコンロの前へ立ち、中華鍋に入っていた炒飯を一気に温める。隣のコロンには汁物が入っているであろう鍋が一つ、こちらのコンロも火が着き、あっと言う間に湯気がたち上り、台所に美味しい匂いが漂う。

 炒飯は何故か丼に入れられて大登の前へドーンと置かれるし、溶き卵とニラの浮いたスープはスープカップでは無く、この家で一番大きな汁椀に入れられて大登へ提供された。

 大登にしてみればこの金髪のお姉さんも名前がわからないし、基本的な情報が何一つ無い。今は黙って空腹を満たすことを最優先にすることとした。

 しかし、大登が唐揚げを二つ三つと食べると即、橙子が取り箸で継ぎ足していき、いつまでたっても取り皿の唐揚げは減らなかった。

 炒飯だけでも飲食店の二人前と同等の量はある。そこへわんこそば並みの勢いで唐揚げが足されていく。

 大登、「いい加減にしてくれ」と言おうとしたら橙子はいたずらっ子のような顔で「大登君、無理しなくていいからね」と言ってから「でも、炒飯は残さないでね」と付け加えられてしまった。


 いつもならば飲食店へ入っても大盛りをペロリと平らげる大登だが、さすがに今夜は腹八分を越えて満杯に一割増しと言ったところだろうか。

 大登は湯船に浸かりながら「明日の朝ご飯は、さすがに要らんよなぁ」と誰かに聞かせたいわけでも無いが、つい声が出ていた。

「もしかすると、昼ご飯も抜くかも」

 普段、シャワーだけで済ませているから時間を気にせずに湯船へ浸かれるだけでも贅沢に感じていた。

 湯船の中で可能な限り身体を伸ばし、目を閉じて大登はうとうとしていた。

「大登君。溺れてない?」

 磨り硝子の向こう、脱衣場に人影が見えるが、大登にはまだ誰が声を掛けてくれているのかはわからない。

「大丈夫でーす」

 誰かはわからないが、とりあえず溺れていないことを伝えておく。

 長風呂だったかもしれないが、そこからさらに五分ほど湯船に浸かってから風呂を出てそのまま部屋へ行って布団に入ろうとしていたが、台所にいた祖母から「大登、ちょっと」と言いながら手招きされる。

 手招きされるがまま台所へ入ると「そう言えば、説明しなくてはいけなかったわね」と祖母がその場に居た七人について語り始めた。

 祖父はもう眠ってしまったのか、台所にはいなかった。

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