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第三話

 本来ならば電車を乗り換えてさらにローカル線で二駅乗らなくてはいけないのだが、あまりにも本数が少ないので祖父が車で迎えに来て貰うことになっていた。

 そうは言っても大登が祖父母へ伝えたのは今日の昼下がり、さすがに祖父母も驚いていたが、「大学の講義が終わって準備が出来たらまた連絡する」と伝えていた。

 薄い積雪が目に入る。電車に乗っていた時にも所々雪が積もっていたのは見ていたが、電車を降りると改めて一月の寒さを感じるし、改札口を出て祖父が迎えに来てくれるまでしばらく待たなくてはいけない。また雪が降りそうな気配でもある。

「寒いなぁ」

 独り言ちながら自販機で温かい飲み物を買おうとする。しかし、肝心の自販機が見当たらない。駅から一番近いコンビニまで行こうと思っていたら一人、大登へ近付いてくる。

「鈴木大登君?」

 声で女性だとはわかったが、大登にしてみれば「さて、誰だろう?」と睡魔に襲われている頭で悩むこととなる。それでもこの町に大登のことを知っているのは祖父母以外にいないということはわかる。

「もしかして、じいちゃんかばあちゃんに頼まれた?」

 その女性に聞いてみると「うん」と頷く。

 黒のダウンジャケットを着てフードを深く被っているし、うつむき加減だから表情はさっぱりわからない。

 どこに隠していたのかわからないが、タンブラーを取り出して「コーヒー入ってるし。温かいよ」と大登へ差し出す。

「ありがとう」

 大登は何一つ疑うこと無くタンブラーを受け取って一口飲んでみる。

「苦っ」

 この苦さ、まさしく祖父の好み、間違いなく目の前にいる女性は祖父に頼まれて今ここに居るのだろうと大登は思った。

「ところで大登君」

 相変わらずうつむき加減の女性が声を掛けてくる。

「なんでしょう?」

 コーヒーの苦味で少しは眠気が取れてきちんと応対できていると大登は思っている。

「私が誰だか、わかってるの?」

 女性は落ち着いた口調で尋ねてくる。大登は「この町で俺のこと知ってるのは、じいちゃんらだけだし、このコーヒーはじいちゃんの味だし、もしかして橙子さんの知り合い、とか?」

 女性は「クスッ」と小さく笑ってから「大登君、知らない人から飲み物や食べ物を受け取って、すぐに食べたら駄目だよ。毒でも入っていたらどうするの」と至極真面目で諭すように言ってくる。

「すみません」

 大登は思わず頭を下げていた。

 クラクションが鳴った。音がする方を二人が見ると駅前のロータリーに車が一台入ってくる。

 黒塗りのフォルクスワーゲン・タイプ1、祖父の愛車である。車体の屋根に行灯を載せたらタクシーとして利用できないだろうか、時々大登はそう言う事を思う。

 祖父のタイプ1は輸入品で左ハンドル、新車で購入したと聞いてはいるが、何年乗っているのか、大登にはわからない。

「待たせたなぁ」

 祖父は運転席から降りながら大登へ声を掛ける。

「すみません。お手をおかけしまして」

 大登は祖父に一礼する。

「一服させて。一本だけだから、待っててな」

 そう言うと祖父は煙草を一本咥えて安そうなライターで火を点け、紫煙をくゆらせる。

 その間に大登の横に立っていた女性は大登が足元に置いていたボストンバッグを持って助手席の方へ歩いて行く。

「あ、すいません。俺、自分で持ちますよ」

 大登は女性へ声を掛けるが、片手にボストンバッグを持ち、残る片手で助手席のシートを前へ倒して何かを待っている。

祖父が煙草を吸い終える前にタイプ1へ乗っておこうと思い、助手席の方へ向かう。

 女性がドアを持って待っている。どうやら後部座席に座ることを勧めているようだ。

 大登が後部座席に座ると助手席のシートは元の位置へと戻されて女性が座る。

「そう言えば、名前を聞いてなかったよ」

 大登は助手席に座る女性に尋ねる。

「私は茜。茜って言うのは日本名って言う処かな。本名はオリヴィア・フォン・ニーンブルク=ヒルデスハイム。大登君、茜でもオリヴィアでも、好きな方で呼んでね」

 そう言いながらフードを外すとそこには三つ編みにした綺麗な赤毛、そして瞳の色も赤なのだが、瞳の赤は濃くてルビー色と表現した方が良いかもしれない。大登は茜の赤毛で三つ編みを見たとき、赤毛のアンを思い出して「そう言えば、ばあちゃん、赤毛のアンが好きだったよな」と祖母の本棚を思い出す。

 茜の年齢はぱっと見、中学生ぐらいだろうか。

 何気なく窓の外を見ると小雪が舞い始めていた。そしてあっと言う間に祖父母の家へ到着する。到着したと言ってもまずは門を開けないと車が車庫に入れない。助手席に座っていた茜がサッと車を降りて門を開け、そのまま大登のボストンバッグを持って玄関へ向けて歩いて行く。

「大登。先に降りてていいよ」

 祖父に言われて大登は助手席を倒して貰って車から降りる。そして祖父が愛車を車庫に入れ終わるまで近くで待っていた。

 祖父は後進で愛車をゆっくりと車庫に入れる。大登は祖父の愛車が車庫に入ったのを確認してから門を閉じた。

 祖父は車から降りてくると「冷えるし、先に行っといて良かったのに。忘れ物は無いよな」と大登に確認して「さぁ、行こうか」と二人で肩を並べて玄関へ向かった。

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