第十七話
翌日、大登は朝食は摂らず、少し早めの昼食を摂ってから自分のワンルームマンションへと戻ることにした。
駅までは祖父の愛車で送って貰うことになったが、何故か橙子と黄華が同乗している。
黄華が助手席、橙子は大登の横に座っていて膝の上には百貨店の紙袋、そこにはタッパが幾つか入っていて数日分の御菜として祖母が持たせてくれた。
大登が改札口を越えようとした時、「早めに決めろよ」と祖父が言う。大登は「うん」と頷きつつ、「二月三月は卒業や入学で学生相手の不動産屋も忙しいだろうな」と改めて思ったが、話し出したら長くなりそうな気がしたから口には出さなかった。
橙子から紙袋を受け取って改札を越えてホームへと入る。
「いってらっしゃいませ」
橙子と黄華がとても丁寧なお辞儀で大登を見送る。
翌日から大登はアルバイトをしつつ、不動産情報を集める日々を送ることになった。
二月、三月と言えば四月からの新入生が部屋を探すために不動産屋を巡り始めているし、一方で三月で卒業する学生らは退室の手続きを始めており、毎日空室の情報が変化していく。
今、大登が住んでいるワンルームマンションも同じ状況で親と一緒に下見へ来る人、見積もりのために部屋を訪ねてくる引越業者もいる。一日一回は知らない誰かとすれ違っているような気がする。
このワンルームマンションとは運良く出会えたから大登も嬉しかったし、狭いという欠点もあっても気に入っていた。
それにしても慌てたらその分、空回りして良い部屋が見付からないし、大登も面倒になってきた。
二月中旬になって祖母から電話が入って部屋探しの進捗を尋ねられ、大登は「上手くいってないよ」としか答えられなかった。
祖母としては一日も早く大登の生活を立て直したいという思いがあった。しかし、電話から聞こえてくる大登の声に元気が無いようにも感じる。
「部屋探し、手伝おうか」
祖母は提案してみる。
大登は「実は、迷ってるんだ。間取りとか……」と理想の部屋がどの様な間取りか、わからなくなっていることを伝える。
「私が行くまで、探すのやめたらいいよ」
慌てても仕方が無いし、新しい部屋を探すことで大登が疲弊しても困る。それに二月、三月は引越業者も既に予約で埋まっていることだろう。仮に今、良い部屋が見付かったとしても実際に転居できるのは四月の中旬か、運が悪ければ五月の連休明けになるかもしれない。
数日後、大登の都合に合わせて祖母が橙子を連れて訪ねてくる。そして近所の落ち着ける喫茶店で会議が始まった。
大登と祖母で大学までの距離、部屋の数、家賃の上限など必要な条件を出し合っていく。
橙子が横でメモを取っていくが、英語で記されていた。
こうして条件を書き出したメモを基準に大登は翌日からまた部屋探しを始めて幾つか候補を絞り込めることができたが、最後の決断が出来ずにいた。それを電話で祖母に伝えたのだが、横で聞いていたのだろう、電話口の向こうで祖父が「自分の直感を信じろ。気に入らなきゃ、また引っ越せばいいんだ」と言っている。それを聞いた祖母が「そんな簡単に言わないで下さい」と言えば祖父は「俺が保証人になるんだから、なんとでもなるよ」と返し、そこから大登と電話中であることが忘れられたのか、祖父母は電話の向こうで半ば口論のような状態になり、姉妹の中の何人かが仲裁に入っている。数分で収まったとは言え、大登にしてみれば随分と長い時間待たされたような感覚だ。そして決まったのは祖父が大登の下へ来て一緒に考えてくれるとのことだった。
それを聞いて思っていたよりも大事になったと感じた大登は目の前にあった一枚の間取り図を手に取って「もぉ……、これで、いいか」と電話を切って呟いていた。




