第十五話
「誰か一人か二人……」
大登の頭の中では姉妹七人の中から一人か二人を選ぶのならば青良、藍良、橙子、黄華の四人が候補となる。
緑香は夜型のようだし、茜と菫は容姿が自分よりも若く見えるから家事を任せて良いのか、事情を知らない人が見たら未成年を酷使していると勘違いされないか、その点が気になってしまう。それに自分より長生きしていると言われても実感が湧かない。
畑の周囲を歩きながら大登は「人選は祖父母と相談して決めよう」とか考えていたら茜と菫が声を掛けてきた。大登はちょっとだけビックリする。
「大登君、冷えるよ。中に入った方がいいよ」
茜に言われて「そうだね」と大登は答える。
二人と歩きながら「七人とも、髪はロングなのはなんで、意味あるの?」と大登は尋ねてみた。姉妹七人、揃いも揃って髪は長い。七人居たら半分は髪がショートでも良いのでは無いか、大登は単純にそう思っていた。
「私らの時代って、女性は皆、髪長いし、あんまり切らないよ。長く生きてるけど、今も髪切るのは好きじゃ無いよ」
一呼吸置いて「伸びっぱなしじゃないよ。適当に切ってるけどさ」と茜は話してさらに「本当はお団子にするべきなんだろうけど、今の時代、無理にしなくてもいいみたいだし」と言葉を繋げた。
今、菫はストレート、茜は三つ編みだ。
もう一つ、いつ見ても着ているのはワンピースだ。この点も大登は尋ねてみた。
これも七人が生まれ育った時代はワンピースが主流だったからであり、今も着慣れているから自然とワンピースを選ぶらしい。
歩いていると青良、藍良の二人が洗濯物を干している姿が目に入る。
祖母は青良、藍良を後ろ姿だけで見分けることが出来ると話していたが、大登は二人の瞳を見ないことには青良と藍良を見分けることなど出来無い。
畑の片隅に農具などが置いてある小屋がある。そこへ二人が使っていた農具を片付けようと木戸を開けると鍬や鋤などと並んで刺股と警杖が立て掛けてあった。大登は何かの見間違いかと思い、二度見したが、やっぱり刺股が三本と警杖も三本だった。
「なんでこんなものが?」
そう思っていると茜が「それ、猪とか、鹿が出てきたら、追い払うのに使うの」と教えてくれた。
「この辺りも、鹿や猪、出るんだ」
「うん。寝ている間に来たら仕方無いけど、昼間だったら、これ使って追い払うんだよ」
茜が教えてくれる。菫は茜の横に立って小さく頷くぐらいで積極的には話そうとしない。
「そうなんだ。農業も大変だ」
「本当は、槍を七本造って、一人一本持って、猪や鹿が出たら、皆で退治しようって話もあったんですよ」
引き続き茜が語る。
「槍?」
大登は賤ヶ岳の七本槍を思い浮かべる。そうは言っても大登、賤ヶ岳の七本槍という名前は知っているが、糟屋武則、片桐且元、加藤清正、加藤嘉明、平野長泰、福島正則、脇坂安治に石川一光、桜井家一の二人を合わせた九人のことだとか、そこまでは知らない。
大登は頭の中で姉妹七人がワンピースで槍を持ち、迫り来る鹿と猪の連合軍に突っ込んでいく場面を想像してちょっとニヤけてしまっていた。
「大登君、変なこと、考えてないでしょうね」
茜に言われて大登は慌てて首を横に振る。
立て掛けてあった一本の刺股を手に持った大登、「重っ!」と言ってちょっとだけ姿勢を崩しそうになる。幸い転倒するようなことも無かったが、刺股は元の位置へと戻した。
「重いけど、大丈夫なの?」
大登の問いに「これくらいの重さが、私たちに丁度いいんだよ。重さを考えて、旦那様に造って貰ったんだ」
「え?」
大登、「旦那様って、じいちゃんのことだよね」と今更ながら二人に確認する。茜と菫は「うんうん」と頷く。
「じいちゃん、こう言うのも造れたんだ」
大登、壁に立て掛けられた刺股と警杖を見て改めて「じいちゃん、凄いよなぁ」と感心しきり、「もうちょい軽かったら、俺でも振り回せたかも」と大登が言えば「軽いと、一回で仕留めること出来無いんだよね。だから、思い方がいいんだよ」と茜が言う。
「仕留める?」
大登は聞き返す。
「猪や鹿は追い返せって言われてるけど、面倒な時とか、しつこい時は、思いっ切り殴って、解体して食べちゃうの」
「それって……」
野生の猪や鹿を勝手に解体して良かったのか、大登は記憶の中を探ってみる。
「大登君、世の中には思い出さない方が、良いこともあるよ」
茜に言われて大登はそれ以上、思い出すことを止めた。
「そう言えば、さっき、槍の話が出ていたけど、槍もじいちゃんが造る予定だったん?」
「そうですよ。でも、勝手に刃物を造ったら駄目とか、そう言う法律があるとかで、刺股と警杖になったんですよ」
「……銃刀法」
茜と菫は頷く。
大登は警杖を持ってみる。こちらも持ちやすいが、重さがある。大登が元の位置へ戻そうとすると茜が横から手を出し、大登から一歩、二歩、三歩と離れてから警杖をバトントワリングのようにくるくる回し始める。
「上手いねぇ」
大登はそう言いながらポケットに入れていたスマホを取りだし、ノリの良い曲を選んで流してみる。
曲に合わせて警杖を回したり、真上へ投げたりする茜を見ていた菫も警杖を一本、手に取って茜に合わせて動き始める。
二人の息がピッタリなので大登は感心して観ている。
曲が終わった丁度その時、二人が持っていた警杖の先端は大登の鼻先数センチの位置でピタリと止まった。
大登は一人で拍手喝采しつつ、「練習でもしたの?」と二人に聞いていた。
茜は「適当に振り回しただけだよ」と言うし、菫は「ヴィーに合わせただけだよ」と答える。
大登が「もう一曲、いける?」と問い掛けて茜が「言いよ」と答え、二曲目が始まろうとしたその瞬間、いつの間に来ていたのだろう、黄華が茜と菫の首根っこを掴み、「貴方たち、何してるの!危ないじゃない!大登君に当たって、怪我でもさせたらどうするの」と強い口調で言う。
「ごめんなさーい」
二人は謝るが、黄華はそのまま二人をズルズルと引きずっていくのは良いが、二人とも警杖を持ったまま、さすがに大登も「警杖、どうするんだろう」と気になったが、今の黄華に声を掛けるのはまずい気がしたので控えた。
「大登君、少し早いけど、十時のお茶にしましょう」
黄華が笑顔で振り返って大登に声を掛けてくる。
大登にしてみれば今さっきコーヒーを飲んだような気がするのだが、スマホで時間を確かめるとまもなく十時、リビングでお茶を楽しむことにした。
「それにしても……」
物干し竿に女性用の下着が干してあるのが意識しなくても目に入ってしまう。無理に目を背けるのも不自然だし、困惑しながら大登は物干し場の横を通った。




