第9話 レース場の芝生
イノセントがパドックのそばにあった入り口を見つけました。
「ハンナ、ここからだとハルもレース場に入れそうだよ」
私はどうやってハルを中に連れていけばいいのか悩んでいました。建物にはいくつかゲートがあったのですが、どれも人間用のもので、とてもウマが通り抜けられるものでははなかったからです。
「イノセント、ありがとう。ハル、こっちから行こう」
そこはレースに出るウマがレース場とパドックの間を行き来する通路でした。
なので、ハルが通っても誰も何とも思わないみたいでした。
通路を抜けると目の前がパッと明るくなりました。そこには黄緑色の鮮やかな芝生が敷かれたレース場が広がっていました。
「ひろーい!」「せまーい!」
「え!?」「え!?」
私とハルは同時に叫び、同時に驚きました。
「広い」と言ったのが私で、「狭い」と言ったのがハルです。
「え? なんで? 私こんなに広い真っ平らの空間を見たのは初めてなんだけど」
「え? そうなんですか? これは観客席というのですか? こんなものに囲まれた狭い場所でどうやってレースをするんですか?」
そのとき丁度、目の前をウマの集団が駆け抜けていきました。観客席から大歓声があがり、しばらくハルとは会話ができなくなりました。
私たちはレース場の目の前に来てしまっていたのです。
しばらくすると走っていたウマたちがゴールを駆け抜け、歓声は一段と大きくなり、そして徐々に納まっていきました。
「ふんふん、分かりましたよ。一本のコースをグルッと丸めて楕円形に繋いでいるんですね」
「???」
「私たちの国ではレースは真っ直ぐなコースで行われます。こんな観客席はないし、真っ平らな草原はどこまでも走っていくことができますから」
陸上競技場も競馬場も、こういう形をしていることが当たり前と思っていたし、観客席があるのはサッカー場も野球場も同じです。けれどハルにとってはそれがすごく面白くて変なことのように感じていることに気づきました。
「けどこんなきついカーブをよくあんなスピードで曲がれますね。ああそうか、だから序盤はスピードを緩めて走り、最後に一気に加速するんですね」
ハルは先ほどチラッとだけ見たレースから、そこまで読み取っていました。さすがは草原のレースで優勝したウマです。
「面白そうですね。私もちょっと走ってみようかしら」




