第10話 出走ネゴ
しばらくすると先生や残りの動物たちが通常のゲートを通ってレース場に入ってきました。
ハルは早速先生にレースに出ていいかと尋ねました。
「う~ん、さすがにそれは難しい気がするね。それぞれのレースには事前に登録されたウマが出走することになっている。それが変わるとオッズにも影響するしね」
「オッズというのは何ですか?」
「賭け率のことだよ。人気がある、つまりそのレースで勝つと思われているウマは、賭け率が低いので1着に入ってもあんまり儲からない。だけど勝つ可能性は一番高い。逆に勝つ可能性が低いウマは掛け率が高くなるので、勝つ可能性が低くても、当たったときの儲けが大きいから、好んでそういったウマに賭ける人も多い」
「なるほど。残念だなあ」
「ああ、ジョン先生じゃないですか」
一人の男の人が私たちに近づいてきました。
「やあ、ヒガシクリさん。お久しぶりです」
と先生はその人と握手を交わしました。
「先生、この方は?」
と私が尋ねると、
「ヒガシクリさんは厩舎の管理人をしておられるんだよ。以前その厩舎のウマが病気になって、一度私がいって診察したことがあるんだよ。ヒガシクリさん、こちらはハンナ。時々私の助手をやってもらっています」
ヒガシクリさんは驚いた顔をしながら私に手を差し出しました。
「こんなに若いのに助手なんて。君も将来は獣医になるのかい?」
私は「まだまだ見習いです」と言いながら握手の手を差し出しました。
そこにハルもやってきて、ヒガシクリさんに挨拶をしました。ヒガシクリさんはさすがに普段からウマと一緒に暮らしているせいか、ポンポンと首を叩いてハルの挨拶に答えました。
ヒガシクリさんは言いました。
「やっぱり獣医というのは儲かるんですね。ジョン先生も遂に馬主になられましたか」
「儲かりませんよ! これは友達の馬です」
先生は慌てて否定しました。ヒガシクリさんはもう一度ハルを見ました。
「確かにそうですね。これはどこのウマですか?」
「大陸の草原の生まれなんだ」
「ふーん、そうなんですね」
ヒガシクリさんは興味深げにハルの体つきを眺めていました。
ヒガシクリさんが先生に振り返って言いました。
「あのときは本当に助かりましたよ。いつもの獣医は全くのお手上げだったのに、先生に診てもらった後はすぐに元気になりましたから。今ではうちの厩舎の期待の星ですよ」
「ハープウィンド号かい? 彼は今日も走るの?」
「はい、そうです。ようやく一つ上のクラスのレースに出られるようになったんですよ。両親の血統を考えるとこんなところでぐずぐずしているようなウマではないと思うんですが、まああんな病気をした後ですから、走れるだけでも御の字ですよ」
「今日の第7レースだね。ふーん、一頭強いウマがいるね」
先生は多分レース場に入る途中で買った新聞を見ながら言いました。その新聞には今日のレースの情報がびっしりと書かれていました。
「そうなんですよ。どこまでくらいつけるかってところです」
「なるほど……」




