第3話 草原からの使い
その日、私はクリニックの中庭でメティスの語学特訓を受けていました。このところ天気の良い日が続いていたので、私たちは庭に出て、陽気の中で勉強をしていたのです。
ただこの日は少し暑く、じっとしていても汗ばむほどでした。私たちは庭に一本だけ生えているオリーブの木の下で、多少は直射日光を避けながら勉強を続けました。
「ジョン先生のお宅はこちらですか?」
私は顔を上げました。というのもそれが人間の言葉だったからです。
(庭に直接人が来るなんて珍しいな)
とそのときは思いました。
けれどもそこには人は誰もいませんでした。そこにいたのは黒くつやつやと光る身体を持つウマだったのです。
私はまだウマの言葉を覚えていませんでした。なので私は少し混乱しました。
(あれ? なんで私、ウマの言っている言葉が分かったんだろう?)
私が何も言わずにただぽかんと眺めているのを見て、そのウマは口を開きました。
「失礼しました。まだ名乗っていませんでしたね。私はハルと申します。ここから遠く、海の向こう、砂漠の手前、草原の国から参りました。ジョン先生にお目にかかりたく、お取り次ぎをお願いします」
私はすぐには返事ができませんでした。たしかに私はウマの言葉が理解できています。
そこで、少し言葉に詰まりながら、このように返事をしました。
「いえ、違うんです。私が言いたいのは、あの、、、どうしてあなたは人間の言葉が喋れるの?」
そのウマは急にヒヒヒ~~~ンといななき、何かモゴモゴと唸ったり、首をしきりと振ったりし始めました。私は今度は本当に何も分かりませんでした。私が戸惑っていることに気付いたのか、そのウマは再び人間の言葉を話し始めました。
「忘れておりました。この国では動物たちは人間の言葉が喋れないのですね。そして私は自分の言葉が喋れる。嬉しいなあ」
私はまだ何のことか分かりませんでしたが、
「ごめんなさい。私はまだウマの言葉が喋れないの。ハルさんって言うの? 私はハンナです。ジョン先生の生徒、一番弟子かな?」
「それならハンナ、あなたは私の二番弟子ですね。私の一番弟子はジョン先生ですから」
と、メティスが話に入ってきました。
「ジョン先生にご用なら私が取り次いで参りましょう」
メティスはそう言うと、建物の方へ飛んでいきました。




