第13話 ゲートイン
「僕も2歳の頃までは牧場で負けなしの速さだったんだよ。けどその後病気になっちゃって。1年くらい誰にも気づいてもらえなかった。けどヒガシクリさんだけは『なんだか変だぞ』と思って、そこでジョン先生のことを知って連絡したらしい。先生が牧場まできてくれてね。ウマの言葉で直接お話ししたら病気の存在に気づいてくれて、すぐに緊急手術ということになったんだ。左のお尻の辺りのキズは手術の跡なんだよ。ただ治った後は、僕は牧場で一番の速さというわけではなくなってたんだけど……」
私は少し話題を変えました。
「けどこのレース場は面白いね。さっきから何度もレースを見ているけど、最初はみんなゆっくり走るのね。一番最初に先頭に立ったウマが最後まで1着のままゴールするのは見たことがない。いつも後ろの方から特別速いウマが迫ってきて、そのまま優勝してしまうみたい」
「そうだね。みんなコーナーの終わりのところから本気で走り出すよ。たまに最初っから全開で走って、最後までトップのまま走り切るウマもいるけど。けど大体は途中で追いつかれちゃうことの方が多いかな」
「私はこんなきついカーブはレースで走ったことがないからその方がありがたいかな。じゃあ最後の直線になったらぶっ飛ばすからついてきてよ」
「君ってそんなに速いの?」
ハープウィンドが疑わしそうに訊いてくるので私はちょっとカチンときました。けどまあ私が走ってるところを見たことがあるわけじゃないししょうがないか。
「まあ見てなさいって」
そこへ一人の騎手が近づいてきました。
「君がハル? よろしくね。ボクはブリン・ヒガシクリ。さっき君が会ったのはボクの親父なんだ」
私は人間の言葉は話せましたが、ジョン先生以外の人に対しては普通のウマのように振る舞うことにしていました。
そこで軽く鼻をこすりつけると、騎手のブリンさんは慣れた手つきで鞍を乗せ、さっと私に跨がりました。
「どんな風に走ろうか? まあ君に任せるよ。ボクもサラブレッド以外のウマに乗ることは滅多にないし。といっても僕の言葉は通じないか」
しっかり通じていましたが、私はやっぱり通じないふりをして、その代わりどんな感じで走ろうかなと、頭の中でなんとなく考えていました。
すると放送の声が響きました。
「第7レース出場馬は準備をしてください」
「ハル、行こう」
ハープウィンドが声をかけてくれました。
「うん」
私はハープウィンドについてスタートゲートに向かいました。
「ハルは何番?」
「え? 何番だろう?」
「ハルさんは18番ですよ」
と、係員の人が教えてくれました。
「そうか、一頭欠場になったから、そこにハルを入れたんだね。僕は10番だから。また後で」




