ぼっけぇ、楽しい?
「岡山か。ええとこ選んだな。……そいじゃあ、これからは俺らも『岡山弁』でいくで。湊、お前さん、岡山でどんなハックかますつもりなん?」
結衣が岡山駅のホームに降り立ち、ペロリと舌を出して笑う。湊は万年筆を指先で器用に回しながら、穏やかな瀬戸内の風を感じていた。
「おうよ。岡山は『晴れの国』じゃけぇ、心も天気もカラッと晴らしてやらんとな。東京の繊細さも、アマの泥臭さもええけど、岡山のこの、のんびりしとって、それでいて芯が強ぇ感じ……これを琳派の『余白』としてハックしてみるか」
湊たちは、岡山城を見上げながら、街の中心部、表町商店街へと歩を進めた。
「なんか、街ん衆が少し元気がねぇんじゃねぇか?」健太が商店街のシャッター通りを見渡して呟く。「店は閉まっとるし、歩いとる人も下向いとる。これじゃあ、せっかくのいい街がもったいねぇわ」
「そうじゃな。じゃあ、俺らがここの『色』を塗り替えてやるか」
湊は商店街の中央に立つと、人通りのまばらな歩道に向かって、大きな声で叫んだ。
「よう、そこのあんた! 何下向いて歩いとるんじゃ! 岡山ん人間なら、もっと胸張って歩かんかい! 今日のこの空、なんぼほど綺麗か知らんのか!」
通りがかった老夫婦が、驚いて立ち止まる。
「なんじゃ、あんたたち。急に大きな声出して……」
「俺らは通りすがりの演出家じゃ。あんたらのその地味な日常、今日で最後にしてやるよ」
湊が万年筆を振るうと、古びた商店街のシャッターに、水墨画のような力強い筆致で「桃太郎の鬼退治」ならぬ「退屈退治」の絵が躍り出し始めた。それは金銀の箔が踊り、鮮やかな色彩が街を包み込む、まさに「動く琳派」の世界。
「なんじゃこりゃあ……! シャッターが生きとる!」
老夫婦の目が輝き出す。商店街から人が吸い寄せられてくる。湊はさらに熱を込めて、岡山弁で語りかける。
「ええか、岡山ん人はのんびりしとるかもしれんけど、その裏にはめちゃくちゃ熱いもん隠しとるんじゃろ! 『ぼっけぇ』面白いもん、本当は山ほど持っとるんじゃねぇか。それを、なんで表に出さん!」
「そりゃあ……今は景気も悪いし、若い衆もみんな出ていくし……」おばちゃんが寂しそうに笑う。
「景気? そんなもん、俺らの笑顔でどうにでもなるわ! さあ、みんな、笑え! 岡山ん人間が本気で笑ったら、桃太郎も鬼もびっくりして腰抜かすぞ!」
湊が指を鳴らすと、商店街の街灯が桃色に光り出し、通行人たちの服の模様が、華やかな光琳模様へと変わっていく。若者も、お年寄りも、サラリーマンも、みんなが自分の服の鮮やかさに驚き、次々と笑い出した。
「わっ、俺のパーカー、こんなんなっとる! すげぇ!」
「私のエプロンも、なんか光っとるわ! ええねぇ、これ!」
空気は一気に沸騰した。湊たちのハックは、岡山の人々が心の奥底に眠らせていた「粋な遊び心」に火をつけたのだ。
「いいか、岡山! 流行りを追うんじゃねぇ。お前さんらが元々持っとる『晴れやかさ』を、世界に誇るんじゃ!」
湊の言葉に、街の人々が呼応する。
「そうじゃ! 俺ら、もっと胸張ってええんじゃ!」
「岡山はええとこじゃ! みんな、もっと笑え!」
商店街が、まるで金屏風を広げたような祝祭空間に変わった。湊たちは岡山の人々と肩を組み、街を練り歩く。どこへ行っても、笑顔の波が広がっていく。
「ぼっけぇ楽しいわ、これ!」
「最高じゃ! 湊の兄ちゃん、お前ら最高じゃ!」
夕暮れ時の岡山城が、湊のハックによって黄金の輝きを放ち始めた。その美しさは、どんな写真よりも、どんなメディアよりも、人々の心に深く刻まれたはずだ。
「……やりすぎたか?」結衣が笑いながら湊に寄り添う。
「いや、岡山ならこれくらい派手なほうがええ。彼らの心の『晴れ』は、俺らが想像しとった以上に強かったわ」
読者の君。
岡山ん衆の底力、分かったか?
彼らは、自分たちを「のんびりしとる」と言うけれど、本当はめちゃくちゃ熱い情熱を抱えとるんじゃ。
君の心にも、岡山で火をつけた「晴れやかな情熱」は届いたか?
もし退屈を感じとるんなら、岡山へ来てみんさい。
桃太郎が鬼を退治したみたいに、君の退屈も俺らがぼっけぇ派手に退治してやるけぇ。
さて、次はどこへ行こうか。
君の街へ、この「晴れの国の風」を届けに行ってやろうか。
地図を広げて、待っとるけぇな。




