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死の舞踏会と見える嘘⑦犯人は

ヘルガ・バウマン→被害者。オットーの妻。

オットー・バウマン→ヘルガの旦那。

フレッツ・バウマン→ヘルガの息子。

マーガレット・ナイトレイ→フレッツの恋人。

アドリアン→ヘルガのお抱えの理髪師。


アレックス・ブライト→アレク、端正な顔立ちに完璧なエスコートを見せる色男。

フィンバート・グレンドール→フィン、好青年、警察、アレクの知り合い。

セルジュ・ノクス→フィンの相棒、鑑定官、アレクの知り合い。柴犬みたいな男。


 会場にオットー、フレッツ、マーガレット、アドリアンを呼んでもらった。


 その場の中心にブリジットは立った。隣はアレックス、フィンバートがいる。


 皆の視線が、ブリジットに集中する。フィンがこそっと耳打ちする。


「これで関係者全員だよ。ブリジット、いい?」


ブリジットは黙って頷いた。


フィンが「じゃあ、はじめるね」とブリジットに小さい声で確認する。


「ええ、始めてください」


フィンが会場の中心でよく通る声を出した。


「関係者の皆さんお集まりありがとうございます。今回の事件でお伝えすることができましたので集まってもらいました」


「それはなんだね?今日はくたくたなんだ。妻が亡くなったのではやく休みたいのだが」


オットーの声には苛立ちがこもっていた。


「すぐ終わります」


ブリジットが落ち着き払った声を出し、関係者一同を見回す。



そして、ある人物を指差した。


「アドリアン、あなたが犯人です」


指差されたアドリアンは声を荒げる。


「私が?!」


「ええ、あなたが犯人です」


アドリアンが小バカにしたように笑う。


「ヘルガ様が倒れた際、私はあなたのお友達エマ様とお話ししていたのに?ブリジット様はこの事実をご存知ないのでは?」


 ブリジットは指を下ろし、冷静に返す。


「知っております。それを加味してもあなたなんです」


「ご令嬢は私が遠隔的に魔法を使って毒物をのませたと思っているのかな?私は魔法を使えないただの理髪師ですよ」


 アドリアンが両手をひろげる。大げさに冤罪をかけられた喜劇の役者のように。


「ええ、誰もあなたが魔法で殺したとは思っていません。理髪師のあなたらしい手順です」


 ブリジットとアドリアンの話し合いに横槍が入る。


「どういうことだ?!犯人はマーガレットだろ」


 フレッツだった。フレッツはマーガレットを指差しブリジットに激昂する。マーガレットは指差されビクッと肩が揺れる。


  ブリジットはフレッツを冷たい眼差しで見た。



 愛し合ってた二人のくせに。母親の顔色ばかり窺う……なんて薄っぺらい男。


「マーガレット様の毒はヘルガ様から検出されなかったわ。また、マーガレット様の毒の指輪は開いてなかったのでマーガレット様は違います。ただヘルガ様を叩いて怪我させただけです」


「良かった」


マーガレットは腰が砕けたように座り込む。フレッツは納得いっていないのか不満げである。


ブリジットは再度口を開いた。


「話をもどしますが、ヘルガさまは服用ではなく毒を盛られ続けてたんです。アドリアンの手によって」


「どういうこと?服用でなくて?」


フレッツが疑問を呈す。


「はい、ヘルガ様はかつらをつける接着剤に毒をたっぷり盛られていたのです。頭皮からの吸収なので緩やかに入っていった。だから犯行時、近くにいる必要はなかった」


 はじめてアドリアンのわざとらしい舞台俳優のような笑顔が消えた。アドリアンは不愉快そうにブリジットに視線をむける。


「しかも体温で効果が強まる。舞踏会のような場では、時間とともに確実に効いていく」


「とんだ濡れ衣だ!ほかのものでも犯行は可能だろう?」


 ブリジットは指をひとつ上げる。


「あなただと推定される理由は二つ。かつらに触れるものは限られます。かつらをつけていない無防備な状態でさらせるのは、オットー、フレッツ、アドリアンだけです」


「なぜ私なんだ?!」


「毒入りの接着剤は均一に塗られていたからです」


「冤罪だ!」


アドリアンはブリジットに糾弾するように叫んだ。ブリジットは冷静に答えた。


「あなたの預け荷物を確認しました。あなたは朝からバウマン家に来てそのまま一緒に強制的に参加させられた。常に人の目があった。今回使った毒を処分する暇は無かったはずよ」


 ブリジットは会場に入ってきたセルジュに声をかけた。


「セルジュ!鑑定は済んだ?毒を検討するのは時間がかかるけど、毒の照合は簡単でしょ」


 セルジュは頷く。


「ああ、ばっちりだ。こいつの商売道具に入ってた毒とヘルガの毒が一致した。おまけにかなりの量使ったみたいで残りは少なかった」


  ブリジットは二本目の指をあげる。会場の目線はセルジュから再びブリジットに集中する。


「二つめはあなたはお抱えの理髪師で被害者が頭痛を訴えているのに被害者に近づかなかった。万が一かつらを外させないため。オットーとは親密にはなしていたのに」


アドリアンの顔が羞恥に染まる。


「親密に話していたら何か問題でも?!ヘルガ様の話をしていたので」


『ヘルガ様の話をしていた』

浮かぶ言葉。

 


嘘。


「あなたとオットーは、ただの親密な関係ではなかった。ヘルガ様はプライドの高い方。ヘルガ様はオットーとの関係を見せびらかすためにこの舞踏会にあなたを呼んだ」

 

 アドリアンの口元がわずかに歪む。それでも何かを言い返そうとしたが、ブリジットはさらに追い込んだ。


「あなたは理髪師の才能を利用されていた。ヘルガ様はあなたの腕を独占していた。オットーの恋心と引き換えに」


アドリアンはブリジットの言葉を聞きたくないといわんばかりに頭を抱え座り込み叫んだ。


「あの女は私に弁えろと言ったのだ。どんなにオットーを好いてもお前のものにはならないと。オットーは私のものなのに。あの夜、君の手は特別だって言ったじゃない。オットーは私のもの。だって、あの人の髪は私が作った、彼を輝かせるのは私だけだ」


アドリアンがオットーに眼をむけ手を差し伸べた。


「ああ、オットー」


「ひっ」


オットーがアドリアンを恐れ唾を吐きながら叫んだ。


「私はお前のことなど愛していない。何を勘違いした!?妻が気に入っていたから声をかけたにすぎない。だがそれは道具としてだ。たかが理髪師の分際で」


声が浮かばない。


悲しいことにそれは真実だ。


空気が凍りついた、その瞬間ブリジットがさらに畳み掛ける。


「……今のオットー様の言葉が、答えではありませんか?」


しばらくして、アドリアンは差し伸べた手を下げた。


「いいのよ。オットー。私達、心は繋がっているもの。オットーは私の作品。髪も、装いもすべて私が整えた。あの女じゃない」


 アドリアンは歪んだ笑みを浮かべた。


「私の作品をあの女は自分の所有物のように言った。私の作品なんだもの、愛し愛されるもの。あの女の勝手な勘違いを正してあげただけ」


その声は静かだったが、底に粘つく怒りが沈んでいる。


「勘違いですか」


ブリジットはわずかに首を傾げた。


「オットー様はあなたの作品ではない」


ブリジットは静かに言い切った。アドリアンの表情がわずかに歪む。


「あなたの愛はいびつ」


ほんのわずか、間を置く。


「残念ね、アドリアン。あなたの愛は一方通行」


 アドリアンの呼吸が乱れる。ブリジットは冷静に言葉を放つ。


「あなたは愛されていない」


「こ、こむすめー」

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