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【総力戦】アンタの『実力』より、俺たちの『期待』が上だ ――全米1位 vs ネットの英雄

 お台場の湾岸エリアに、巨大な「空の亀裂」が生じていた。


 そこには、日本のギルド警備隊を赤子の手をひねるように退け、悠然と浮遊する一人の男――全米1位探索者、ジャック・ハリソンがいた。


「この国の『バグ』を回収しに来た。……佐藤蓮、レコードを渡してもらおうか」


 ジャックが指を鳴らすと、周囲の音が完全に消失した。


 彼のギフト【自由のリバティ・フェザー】の真の力――それは『周囲の因果を強制的に遮断し、自分だけの物理法則を押し付ける』という、演出殺しの能力だった。


「なっ……レコードが鳴らない!?」


 俺が焦って盤面に触れるが、レコードは黒い霧に包まれ、沈黙している。


「無駄だ。そこには音楽も、幸運も、観測者の期待も届かない。……死ね、ラッキーボーイ」


 ジャックが放った不可視の衝撃波が、俺の喉元に迫る。


 凪が、紬が、颯が助けに入ろうとするが、ジャックの「因果遮断」の壁に跳ね返され、近づくことすらできない。


 ――だが、その時だった。

 俺のポケットの中で、スマホが「熱」を持った。

 バイブ音が、ジャックの静寂を切り裂いて、一定のリズムを刻み始める。


『――書き込め。今、俺たちの英雄が消されようとしている』


『――観測しろ。佐藤蓮は、ここで負ける男じゃない』


「これは……『Dチャン』のスレッド……!?」


 湊が叫ぶ。彼のタブレットには、毎秒10万件を超える書き込みが、光の奔流となって流れ込んでいた。


 それは日本中、いや世界中の「蓮のラッキー」を愛する名無しの観測者たちの、純粋な『期待』という名の祈りだった。


1001:名無しの探索者

ふざけんな全米1位! 蓮ニキのラッキーは、俺たちの希望なんだよ!


1020:名無しの探索者

鳴れ! 鳴ってくれレコード!

俺たちの魂の曲(BGM)を、あのバカに聞かせてやれ!




 数万人の書き込みがマナと化し、ジャックが作った「静寂」の壁を内側から爆破した。


 沈黙していたレコードが、かつてないほどの黄金の輝きを放ち、逆流するマナを吸い込んでいく。


「な……観測エネルギーが物理障壁を突破しただと!? バカな、たかが掲示板の書き込みごときが……!」


「……たかが掲示板じゃない。……これは、みんなの『声』だ!」


 俺がレコードを天に掲げると、ジャックの軍歌をかき消して、今この瞬間、日本の街角、テレビ、SNS、全ての場所で流れている「最強の逆転劇」を象徴する、あの超有名な国民的ヒットソングが、お台場中に爆音で鳴り響いた。


【究極奥義:世界系統合旋律ワールド・アンセム

【効果:全観測者の「期待」を現実化する。成功率、無限大。】


 俺は一歩踏み出した。

 ジャックが放つ無数の光刃。それらは全て、俺が「たまたま」蝶の舞う姿に気を取られて首を傾げたり、足元の空き缶を蹴っ飛ばしたりする動きで、ミリ単位ですべて回避された。


「なぜ当たらない! 計算上、回避不能のはずだぞ!」


「計算なんて関係ない! 今、この世界が俺に……『勝て』って言ってるんだ!」


 俺は音楽のサビに合わせて、無意識に右拳を振り抜いた。


 ジャックはそれを冷笑して受け止めようとするが、その瞬間、彼の背後のビルから、先日の戦闘で緩んでいた看板が「たまたま」落下。


 ジャックがそれを避けようとして体勢を崩したところに、俺の「素人のパンチ」が吸い込まれるように、彼の顎を完璧に捉えた。


 ドゴォォォォン!!

 全米1位の体が、空を突き抜けて海へと叩きつけられる。

 

 音楽は最高潮のフィナーレを迎え、お台場の夜空には、勝利を祝う本物の花火(演出ではない、ただのイベントの打ち上げ花火がたまたまこの瞬間に始まっただけ)が打ち上がった。


「……勝った。俺たち、勝ったのか?」


 呆然とする俺の周りに、凪が飛びつき、紬が泣きそうな顔で笑い、颯が拳を突き上げる。


 そしてスマホの画面には、勝利に狂喜乱舞するネット民たちの弾幕が溢れていた。


2000:名無しの探索者

蓮ニキィィィィ! 信じてたぜ!


2010:名無しの探索者

全米1位を『パンチ一発』で沈めるとかwww 伝説確定だろこれ!


2020:名無しの探索者

今のBGM、俺も家で一緒に歌ってたわ。世界が一つになった瞬間を見たぜ。




 海の底から這い上がってきたジャックは、ボロボロになりながら、空を見上げて呟いた。


「……負けたよ。実力ではなく……この国の『愛』という名の理不尽にな……」


 俺は、手の平で静かに回転を止めたレコードを見つめた。


 これは俺の力じゃない。俺を支えてくれる仲間と、顔も知らない数万人の「観測者」が作り出した、令和の奇跡だ。


「……さあ、帰ろう。みんなで美味しいものでも食べてさ」


 俺がそう言うと、レコードからは**「今日という一日を優しく締めくくる、誰もが知る穏やかなバラード」**が流れ始めた。

 

 こうして、世界規模の危機は、一人の「転倒聖者」と「数万人の野次馬」の手によって、最高のハッピーエンドで幕を閉じたのだった。

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