プレイリスト・オブ・ヴィクトリー ――神曲のバフ検証と、静かに迫る『星条旗』
手に入れた『始源の円盤』。これがあれば、俺の気分一つでダンジョン内に流れる音楽を制御できる。
俺たちは早速、第五層の訓練エリアでその「バフ効果」の検証を始めた。
「よし、みんな。まずはこれを試してみる。……イメージは、激しく燃え上がる炎だ!」
俺が念じると、レコードが淡く赤く発光し、ダンジョン内に**歪んだギターの重低音と、魂を揺さぶるドラムが響く「超激しいラウドロック」**が鳴り響いた。
【選択ジャンル:ハードロック ―― 効果:全攻撃力+300% / 痛覚遮断】
「な、なにこれ……力が、溢れてくるわ……っ!」
紬の指先から放たれた小さな火球が、爆撃のような巨大な火柱となってダミー人形を粉砕した。
普段は冷静な湊ですら、愛用のナイフを振り回し「ハハッ、止まらねえ!」と目が血走っている。
「攻撃特化か。……次は、落ち着いたやつで行くぞ」
俺がイメージを切り替えると、音楽は**軽快なピアノとウッドベースが弾む「アーバンなジャズ」**へと変化した。
【選択ジャンル:モダン・ジャズ ―― 効果:完全回避率+80% / 集中力極大上昇】
「おっと……ふふ、体が軽いね」
凪が踊るようなステップで、飛来する訓練用アローを全て紙一重でかわしていく。その動きには一切の無駄がなく、もはや芸術の域だ。
さらに、**「透明感のあるハイテンポな最新ポップス」を流せば、全員の移動速度が爆発的に上がり、「重厚なクラシック」**を流せば、鉄壁の防御結界がパーティーを包み込んだ。
「これ、ヤバすぎるわよ、蓮。アンタ一人いるだけで、パーティーの戦力が一個師団並みになってる……」
紬が冷や汗を流しながら呟く。
そう、俺のスキルは「自分だけの幸運」から、「仲間全員を強制的に勝利へ導く指揮」へと進化したのだ。
しかも、俺が「カッコつけたい」と思っても、このレコードで適切な曲を選べば、もう無様に転ぶことはない。
「これなら……俺、本当にみんなを守れるかもしれない」
俺が初めて自分の力に希望を見出した、その時だった。
同時刻。海の向こう、アメリカ合衆国の「戦略探索者局(SSA)」の巨大なモニターには、蓮たちが検証を行っている隠し撮り映像が映し出されていた。
「信じられん。……単なるラッキーボーイだと思っていたが、奴は『世界のルール(BGM)』をハッキングして書き換えているのか」
葉巻をくゆらす軍服の男が、不敵に笑う。
彼の背後には、星条旗のワッペンを肩に貼った、異様な威圧感を放つ男女が控えていた。
彼らは、アメリカが誇る国家最高戦力。ギフト【自由の翼】を持つ全米1位の探索者、ジャック・ハリソン。
「長官、日本の『転倒聖者』……いえ、『指揮者』の確保任務、私が引き受けましょう。あのレコードがあれば、我が国はダンジョン資源を独占できる」
「ああ、頼んだぞジャック。ただし、慎重にな。彼の掲示板には、既に世界中の観測者が張り付いている。下手に手を出せば、国際世論が黙っていない」
彼らの端末には、日本の『Dチャン』を翻訳した画面が表示されていた。
500:名無しの探索者
おい見ろよ、今の蓮ニキの動き。
転ばずに、音楽に合わせて指揮してるみたいだったぞ。
510:名無しの探索者
曲が変わるたびにパーティーがチート級に強化されてるんだが。
これ、もう『運がいい』とかのレベルじゃねーぞ。
520:名無しの探索者
蓮ニキが、俺たちの期待を超えて『支配者』になり始めた……。
応援するぜ! 世界をアンタの音で塗り替えてくれ!
「……ふん。観測者どもが騒いでいるようだが、真の『力』というものを見せてやるとしよう」
ジャックは冷酷な笑みを浮かべ、専用のプライベート機に乗り込んだ。
行き先は、令和の日本。
蓮がようやく手にした「希望」。
しかし、その光が強くなればなるほど、世界中の「欲望」が彼を狙って集結し始めていた。
夕暮れの公園。
特訓を終えた蓮がふと空を見上げると、そこには不穏なノイズを含んだ、今まで聞いたこともない「重苦しい軍歌」のような旋律が、微かに混じり始めていた。
「……なんだ、今の音?」
蓮のレコードが、見知らぬ強敵の接近を告げるように、鈍い輝きを放った。




