第17章
事故の翌朝。
西村は、病室の天井を見つめていた。
白すぎる光が、
目に刺さる。
(……ここ、どこだ)
数秒、思考が追いつかない。
胸に、
違和感。
ドクン。
一拍、遅れて鳴る鼓動。
まるで、
誰かの分まで
待っているみたいに。
ベッド脇のモニターが、
不規則な音を立てている。
看護師が、
慌ただしく入ってくる。
「西村くん、わかる?」
西村は、
小さく頷いた。
だが、
質問の“次”が見えない。
言葉が、
途中で消える。
数時間後。
落ち着いた頃を見計らって、
一登が来た。
西村は、
顔だけを向ける。
「……来たか」
声が、
少し掠れている。
「無理、しただろ」
一登の声は、
怒っているようで、
怖がっている。
「した」
西村は、
あっさり認めた。
「事故の反動だ」
西村は、
自分の胸に手を当てる。
「なあ、桐野」
「心臓ってさ……
元々、
流れを調整する器官だろ」
血液。
酸素。
リズム。
「俺の心臓、
最初から少しズレてた」
だからこそ、
ズレを感知できた。
「今回の事故でな」
西村は、
一瞬、息を止める。
「通れなかった人間の
**“止まり”**が、
俺に返ってきた」
「戻れなかった分、
俺の鼓動が、
待つようになった」
一登は、
言葉を失う。
「じゃあ……
あの人が……」
「死んだとか、
そういう話じゃない」
西村は、
首を振る。
「“途中”のままなんだ」
「だから、
俺の心臓が、
その途中を引き受けてる」
モニターが、
また音を立てる。
ピッ……ピ……ピッ……
一定じゃない。
「医者はな、
悪化したって言う」
西村は、
苦笑する。
「でも違う」
「増えたんだ」
「増えた?」
一登が聞く。
「ああ」
西村は、
目を閉じる。
「鼓動の“数”が」
「一拍の間に、
別の拍が、
割り込んでくる」
それは、
心房細動でも、
期外収縮でもない。
存在しないはずのリズム。
西村は、
薄く笑った。
「これな……
ノックと、
同じリズムなんだ」
一登は、
背筋が凍る。
「つまり……」
「俺は今、
世界のノックを
心臓で聞いてる」
そう言った瞬間。
病室のドアが、
コン
と鳴った。
誰も、
いない。
西村は、
目を逸らさなかった。
「ほらな」
「事故は、
終わってない」
「俺が、
受け止めてる間だけ
止まってる」
その夜。
一登は、
眠れなかった。
胸が、
重い。
自分の鼓動が、
少し早い。
(……聞こえてる?)
耳を澄ます。
遠く。
微かに。
もう一つの拍動。
それは、
自分のものじゃない。




