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第15章

 遮断の翌日。


 世界は、何も変わっていないように見えた。


 登校班はいつも通りで、

 信号は赤で止まり、青で進む。


 だが一登は、

 **「次が来ない瞬間」**が増えていることに気づいた。


 チャイムが鳴り終わったのに、

 教室がざわつかない。


 教師が話し終えたのに、

 次の言葉が続かない。


 一瞬だけ、

 世界が考え込む。


 (……間が、変だ)


 時計を見る。


 秒針は動いている。


 だが、

 進んだはずの時間が、実感として残らない。


 まるで、

 途中で一度、引き戻されたみたいに。


 西村は、もっとはっきり感じていた。


 彼には、

 “途切れた流れ”が見える。


 廊下の角。


 階段の踊り場。


 人の動線が、

 そこで不自然に薄くなっている。


 (……回り道してる)


 本来なら、

 誰かが迷って、選んで、進んでいたはずの未来。


 それが、

 行き場を失って漂っている。


 胸が、痛む。


 心臓が、

 世界のズレを拾ってしまう。


 「……やりすぎたか」


 呟くと、

 壁の向こうから、かすかな音がした。


 コン。


 ノック。


 以前より、

 弱い。


 だが数は、

 増えている。


 放課後。


 一登は、

 部活に行く気になれず、校庭のベンチに座っていた。


 サッカー部の声が、

 急に遠ざかる。


 風が止む。


 鳥の声が、

 途中で切れる。


 (……今、何人いた?)


 数えようとすると、

 思考が、途中で滑る。


 そして、

 知らないはずの風景が、重なった。


 舗装されていない道。


 草の匂い。


 遠くで鳴る、

 見たことのない駅の発車ベル。


 胸が、ざわつく。


 (これは……)


 出口になっていた頃の、

 残留感覚だ。


 遮断されたはずなのに、

 完全には消えていない。


 「……戻り道が、歪んでる」


 一登は、

 自分がまだ“境界の近く”にいることを悟った。


 その夜。


 町内の掲示板に、

 奇妙な張り紙が増えた。


 ・バスが来なかった

 ・知らない店を見た

 ・入ったら、出られなくなりそうだった


 だが、

 どれも具体性がない。


 写真も、証拠もない。


 ただ、

 体験した感覚だけが一致している。


 西村は、それを見て、

 はっきり理解した。


 「……世界が、一登を探してる」


 出口を失った“流れ”が、

 代わりを求めて、

 日常のあちこちを叩いている。


 そして、

 一登の周囲だけ、

 現象が集中し始めた。


 バス停で、

 誰もいないのに立ち止まる人。


 コンビニの自動ドアが、

 一登の前だけ、遅れて開く。


 家の玄関。


 夜中に、

 ノックの音。


 コン、コン。


 一定のリズム。


 誰かがいる気配は、ない。


 それでも、

 “待っている”。


 一登は、ドアノブに手をかけて、

 動けなくなった。


 開けたら、

 通してしまう。


 閉じたままなら、

 世界の歪みは、

 さらに広がる。


 そのとき、

 背後で、声がした。


 「……桐野」


 振り返る。


 西村だった。


 顔色は、さらに悪い。


 だが、

 目だけが、異様に澄んでいる。


 「遮断は成功した」


 西村は、言った。


 「でもな……」


 息を整え、

 続ける。


 「出口を塞いだ世界は、必ず別の穴を探す」


 「このままだと、

 適性のない誰かが――」


 言葉が、途切れる。


 胸を押さえ、

 苦しそうに息を吸う。


 「――壊れる」

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