第13章
それは、教師からの呼び出しだった。
放課後、職員室。
名前を呼ばれた理由は、分かっていた。
「桐野」
担任の佐藤が、書類から目を上げる。
「最近、クラスの成績が安定してきてるの、気づいてるか?」
「……はい」
気づいていた。
原因が自分だということも。
「佐伯たちから聞いた」
佐藤は悪気なく言う。
「お前、よく相談に乗ってるそうだな」
相談。
その言葉に、違和感が走る。
「助かってるってさ」
佐藤は続ける。
「教える力があるのは、立派な才能だ」
才能。
その単語が、胸の奥でひっかかった。
「そこでだ」
佐藤は、紙を一枚差し出す。
「放課後、学習サポート係をやってみないか?」
「……係?」
「形式的なものだ。
来たい奴が来て、質問する。
お前は答える」
西村の声が、頭の中で鳴る。
――答えじゃなくて、決断を通される。
「先生」
声が、少し震えた。
「それ……僕じゃなきゃ、ダメですか?」
佐藤は、一瞬だけ考える素振りを見せてから言った。
「正直に言うと、
お前が一番効率がいい」
効率。
その言葉が、はっきりと刺さる。
「先生も忙しい。
クラス全体を底上げできるなら、
使えるものは使いたい」
使う。
悪意はない。
むしろ善意だ。
「無理なら断っていい」
佐藤はそう付け足した。
だが――
断る前提の空気ではない。
(引き受ける)
もう、決まっていた。
「……分かりました」
そう答えた瞬間。
胸の奥で、
重たい“固定”音がした。
カチリ。
何かが、はめ込まれた。
数日後。
放課後の教室。
机が円形に並べられ、
生徒が集まる。
「桐野、ここ」
当然のように、中央。
質問が、途切れない。
「これ、どうなる?」
「先生、何考えてる?」
「どっち選べばいい?」
答えが、勝手に流れ出る。
止められない。
終わるたびに、
胸が少しずつ空になる。
教室の外。
西村が、柱の影から見ていた。
目が合う。
彼は、首を横に振った。
(やめろ)
分かっている。
でも。
「助かるよ、桐野」
誰かが言う。
「桐野がいると安心する」
「間違えないで済む」
その言葉が――
最後の鍵だった。
空気が、変わる。
教室の隅に、
**見覚えのある“気配”**が立った。
扉はない。
だが。
出口だけが、そこにある。
西村が、はっきりと“見て”しまう。
――一登の背後。
人の形をした、
無数の未完了。
焦り。
不安。
責任。
選ばなかった未来。
それらが、一登へと流れ込む。
西村が、叫ぶ。
「桐野!!
それ、もう――」
間に合わない。
教師が、言う。
「これからも頼むぞ。
お前がいれば、問題は起きない」
その瞬間。
“完全な出口”が、成立しかける。
世界が、一登を
常設の通路として扱い始めた。
西村が、歯を食いしばる。
「……ダメだ」
彼は、初めて決意する。
友達としてじゃない。
観測者としてでもない。
「壊すしかない」
――
一登を出口にしている“仕組み”を。




