2:市間さんとお弁当
高校新生活、二日目。
新しい教科書も受け取り、いよいよ明日から本格的に授業が始まる。
今日の授業は各限、先生の自己紹介や今後の授業のスケジュールや方針などについて語ったり、先生によっては親しみやすくするためかミニゲームを作ってきていたりと様々だった。
(あぁ、良い感じだな⋯⋯)
新しい高校生活、キラッキラで、とても初々しくて、これからどんどん楽しい事に出会えそうな予感をひしひしと感じる⋯⋯。
「やっとお昼休みだ〜。午前もどうにか乗り切ったよ、ごしょさん!」
「⋯⋯」
⋯⋯うん。
そう言えば、新しい事、既に出会ってたな。
隣の席でちんまりとした日本人形に話しかけているのは、市間紗枝さん。
人見知りなのか、話す度にびくびくと震えている彼女だが、ちゃんと自分から話しかけるだけの勇気を持った強い女の子だ。
授業を受ける姿勢も真面目そのもの。
二日目にしてもうクラスメイトの女子数人と仲良くなっているみたいだし、元々社交的な性格でもあるのだろう。
もちろん、お隣さんという事でオレとも挨拶はしてもらえてるし、関係性は良好そのもの。
今後とも、この関係性は維持していきたい。
(さて、弁当はどこで食べようかな⋯⋯)
このまま自分の席で食べても良いのだが、せっかくなら屋上にでも行ってみたい。
いや、中庭にウッドテーブルもあったし、そっちで食べるのもアリか?
図書館の裏にある大きな木の下で食べるのも、涼しくて風流を感じてオツだろう。
「う〜む⋯⋯」
「あ、あの。東くんっ!」
「うおっ! ⋯⋯って、市間さんか。どうかした?」
昼食の場所をどうするか考えていると、隣の席の市間さんが話しかけてきた。
まだどこか引け腰なものの、少しだけ硬さが取れている辺り、少しは慣れてくれたのかもしれない。
「あの、その⋯⋯」
「うん」
「お、おお⋯⋯!」
「うん」
「お、お弁当! ご、ご一緒しても良いですかっ!?」
「うん。⋯⋯うん?」
今、なんて言った?
聞き間違いじゃなければ、食事に誘われたような⋯⋯?
「えっと、お昼を一緒に、って事かな?」
「⋯⋯!!!(こくこく)」
「⋯⋯Oh」
聞き間違いじゃありませんでした。
オレの高校生活最初のお昼のお相手は、市間さんに決定した。
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「良い場所だねぇ〜!」
「そうだなぁ」
お弁当を食べるのに絶好な場所はどこかと思案した結果、中庭のウッドテーブルでご一緒する事にした。
良い感じに木陰に入っている席を選び、そこに向かい合う形で座った。
ここで取り出したるはオレの弁当箱。
やや小さめながらも二段重ねスタイルで、上の段にはミートボールやポテトサラダ、きんぴらごぼうに焼きジャケなどが所狭しと敷き詰められている。
下の段にはご飯が入っており、中央に福神漬けがちょこんと乗っかっている。
うむ、とても美味しそうだ。
愛情込めて作られたママンの手作り弁当を、大切に食させていただくとしよう。
「うわぁ、素敵なお弁当だねぇ〜」
「ありがとう。母さんも草葉の陰で喜んでるよ」
多分。
「っていうか、市間さんのお弁当も凄いじゃないか」
市間さんのお弁当箱は、底が薄い代わりに横に広がったスクエアスタイル。箱の中は中央から四つのエリアに分けられ、それぞれ白米、野菜、肉、サラダと均等に詰められていた。
っていうか、割と見た目のインパクト強いな⋯⋯。
底が浅いから量自体は平均的だが、箱が大きめな分、具材が多く見えた。
「「いただきます」」
二人して同時に手を合わせ、それぞれの弁当をつつき始めた。
「もぐもぐ⋯⋯」
うむ。母さんの作ってくれたお弁当は、冷めていてもほどよく味が染み込んでいて、抜群に美味しい。
半分は夕食の残り物とは思えない、素晴らしい出来だ。
まぁ、これも今日限りだが。
明日からは購買やお弁当屋さんのお世話になる事が確定しているので、今日のお弁当をゆっくりと味わいながら、そのありがたみをしっかりと噛み締めていく。
「〜〜〜♪」
市間さんも上機嫌なのだろう。
鼻歌を奏でつつ、お弁当箱の四つのエリアを巡回しながら均等に食していた。
そして時折、そばに置いたごしょさんの頭撫でる事も忘れていない。
「えへへ、ごしょさん。わたしは今、東くんと一緒にご飯食べてるよ〜。これも全部、ごしょさんのおかげだよ。ありがとうね〜」
「⋯⋯」
少しは慣れてきたと思ってたけど、ぶっちゃけまだ怖い。
高校生にもなって、学校に日本人形を持ち込み、隙あらば頭を撫でつつ話しかけている。
この異様な光景を、オレはどのような感情で見守っていれば良いのだろうか。誰か教えて欲しい。
というか、何か話しかけよう。
せっかくこうして二人きりになれたんだ、せめて何か話のひとつやふたつはしておかないともったいない。
考えろ、オレ。
オレは今をときめく、青春真っ盛りの高校生男子だぞ。気の利いた話題のひとつくらい訳もないはずだ。
考えろ、そして思いつけ!
「⋯⋯市間さんは」
「え?」
「その人形、とても好きなんだね」
(しまったぁぁぁ!)
話のタネが思いつかず、素足で地雷原に踏み込んでしまった。
歩きどころを間違えたら、オレの足が吹き飛んでしまう!
「⋯⋯そ」
「そ⋯⋯?」
「そうなんです!」
「うおっ!」
案の定、市間さんはこの話題に食いついてきた。仕掛けた釣り針が大きすぎた。
「わたしの実家が雛人形店で、このごしょさんもおじいちゃんが作ってくれたお友達なんです!」
「へ、へぇ〜⋯⋯」
「あ、ごしょさんっていうのは御所人形で、そこから取ってごしょさん、って呼んでるの。昔の小さな男の子の姿をイメージして作られたお人形さんで、祝い事なんかによく贈られる非常におめでたいお人形さんなの!」
「そ、そうなんだ⋯⋯」
勢いに押され、適当な相槌しか打てないオレ。
その後も、市間さんはお弁当をつつきつつ、ごしょさんについての魅力を存分に語りまくり。
食べ終わる頃には、午後の授業の予鈴が鳴り始めた。
(次からは、人形についての話題は触れないようにしよう⋯⋯)
オレは弁当箱を片付けながら、そう心に固く誓った。




