1:隣の席の市間さん
新しい制服、新しい学び舎。
新しい教室に、新しいクラスメイト。
───オレ、、東京太郎は、高校デビューを果たしました!
さぁて、輝かしい高校生活の第一歩として、まずは隣の席の人と挨拶を交わして仲良くなろう。
「ふふ、今日も頑張ろうね、ごしょさん♪」
(⋯⋯⋯⋯怖っ!)
───オレのお隣さんは、とてもヤバい女子でした。
学校に日本人形持ち込んで、しかも名前まで付けて『これが普通ですよ』と言わんばかりに話しかけている⋯⋯。
ヤバい。絶対にヤバいやつだ。
え? 今からこの人に話しかけるの、オレ?
うぅ、正直言って、あまり関わりたくは無い。
無いが、『隣の席の人に話しかける』という目標を掲げたからには、最低限挨拶だけでも交わしておきたい。
それに、人形の事さえ目を瞑ればまともかもしれないし。
「あのー⋯⋯」
うん、きっとそうだ。
まずは気軽に挨拶をしよう。
こう、『やぁ、おはよう』と気さくに行くか?
それとも、『今日は良いお天気ですね』? いやいや、今は室内だし、これはおかしいか⋯⋯。
「あのー⋯⋯」
あるいは、『その人形、とても可愛いね』? って! わざわざ見え見えのブービートラップに飛びつくバカかオレは!
「あ、あのっ!」
「うわっ! ⋯⋯わわわぁっ!」
いきなり大声で話しかけられて派手に驚き、勢い余って椅子ごと後方に転倒してしまった。
イテテ⋯⋯。最後方の席でホントに良かった⋯⋯。
「ご、ごめんなさい! 大丈夫だったかな?」
「い、いや、大丈夫。いってて⋯⋯」
と、そこでオレは気がついた。
話しかけてきたの、隣の人形の人だ!
オレは椅子に座り直しつつ、人形を携えた隣人に話しかけた。
「えと、何か用かな?」
「えっと。せ、せっかくお隣同士になったので、挨拶だけでもしておこうかと、思い、まし、て⋯⋯」
言葉を発する度、彼女の声はどんどん小さくなっていく。最後の方なんて、耳をすませなければ聞き取りきれなかったかもしれないレベルだ。
「そ、そっか」
でも、そうか。
この人も、オレと同じ事を考えてくれていたんだな。
人形に話しかけているから、てっきりヤバい人なのかと要らぬ偏見を持ち込んでいたオレをぶん殴りたい気分だ。
そうと分かれば、まずは自己紹介だ!
「コホン。あー、オレの名前は東 京太郎だ。よろしくな」
「あ、えっと。い、市間紗枝です。よ、よろしくお願い、しますっ!」
そう言い切った市間さんの表情は、やりきった感満載の笑顔が滲んでいた。
「ハハッ。うん、よろしく!」
たどたどしくも、しっかりと自己紹介をしてくれた市間さんは、笑うととても可愛い事が分かった。
緊張しているのか、言葉遣いや発音にぎこちないところがあるものの、自分から話しかけたりする勇気を持てる素敵な女の子だと思った。
この人が隣なら、この一年間は楽しく乗り切れそうだ。
「う、うぅ〜〜〜っ! な、何とか挨拶出来たよ、ごしょさぁ〜〜〜んっ!」
「⋯⋯⋯⋯」
乗り切れる、はず⋯⋯。多分!




