【第4部】第21話 その頃、現場では
「傾いてる」
俺は言った。
カイムが腕を組む。
「傾いてない」
「傾いてる」
「水平だ」
「子供の体重が乗ったら傾く」
沈黙。
スズがブランコにそっと座った。
ギィ……
左に、わずかに沈んだ。
カイムが空を見上げた。
「……傾いてるな」
「だから言った」
川辺では、遊具の設置が進んでいた。
まずはブランコ。
次に、丸太を並べた平均台。
そして今は――
「これ、何?」
スズが聞く。
「ジャングルジムだ」
「どう遊ぶの?」
「登る」
「どこを?」
「全部だ」
スズはしばらく見て、そして言った。
「危なくない?」
俺は即答した。
「危ない」
カイムが横で頷く。
「危ないな」
スズが固まった。
「え?」
俺は続ける。
「だからいい」
「え?」
指で叩く。
「危ないから、考える――」
「どこに足を置くか――」
「どこを持つか――」
「どう降りるか――」
少し間を置く。
「――それを覚える」
スズはしばらく考えて、
そして言った。
「……じゃあ、落ちたら?」
「次は落ちない」
カイムがぼそりと呟く。
「お前の教育は、だいたいそれだな」
次の問題は、滑り台だった。
土で斜面を作り、上に板を置く。
スズが登る。
座る。
滑る。
途中で止まった。
「……滑らない」
「摩擦だな」
カイムが言う。
「水をかけるか?」
「毎回濡れるのは面倒だ」
俺は板を触る。
「表面を削る」
カイムが風魔法を使う。
削りすぎた。
スズが滑る。
「きゃっ!」
高速だった。
下で転がった。
土まみれで起き上がる。
「……速すぎ」
スズが頬を膨らませて言う。
カイムは真顔で言った。
「調整が難しいな」
「無難にヤスリだな」
昼過ぎ――
スズがサンドイッチを運んできた。
「休憩!」
三人で川辺に座る。
風が気持ちよかった。
その時だった――
遠くの空が、光った。
一瞬。
だが、はっきり分かるほどの光量だった。
カイムが立ち上がる。
「……魔力反応」
もう一度、光。
今度は声が届いた。
拡声魔法——
遠くから、はっきりと響く。
「俺は勇者ユウキ!!」
スズが目を丸くする。
カイムが空を見たまま言う。
「勇者……のようだな」
声は続いた。
「魔王を出せ!!」
少し間。
そして――
「裏切り者のイロハもだ!!」
沈黙。
スズがゆっくり俺を見る。
カイムも振り向く。
「……勇者からお呼びだぞ」
少し間を置いて、
「何かやったのか?」
俺はサンドイッチを一口食べた。
「特に覚えはない」
カイムの視線が細くなる。
「お前の“特に”は信用ならん」
俺は少し考えた。
「勇者と言えば――」
二人が見る。
「——アバンストラッシュを使うやつしか知らん」
沈黙。
カイムが言った。
「何の話だ」
「俺の勇者像」
スズが不安そうに聞く。
「……行くの?」
俺は立ち上がり、腰をさする。
「呼ばれたなら、行くか」
カイムがため息を吐く。
「遊具はどうする」
俺はブランコを見た。
少し傾いている。
「帰ってきてから直す」
スズが小さく言った。
「……気をつけて」
俺は頷いた。
カイムが翼を広げる。
風が巻き上がる。
空へ上がる直前、
俺はもう一度、川辺を見た。
未完成の遊具。
土の匂い。
風の音。
そして、スズ。
――作業の途中で呼ばれるのは……
――だいたい、面倒な案件だな
カイムが言った。
「行くぞ」
俺はカイムの腕を掴み、浮遊感を感じた。
空を見る。
遠くで、まだ光が揺れている。
――さて。
――勇者とやらは、
――どれくらい、面倒なんだ。




