【第4部】第14話 検証
カイムが降り立った場所に、
俺はほぼ同時に到着した。
「前方だ」
短く言われる。
木々の隙間。
灰色の装甲が揺れていた。
でかい。
そして、硬そうだ。
カイムが俺を見る。
「……一応聞くが」
「何だ?」
「またゼロ距離で行くのか」
「行く」
「普通に戦う気は?」
「あの外殻を“普通”では通せない」
カイムは小さく息を吐いた。
「……壊れたら治すが、限度はあるからな」
俺は肩を回した。
「お前がいれば問題ないだろ?」
「くそっ、行ってこい」
「一体目、行く」
地面を蹴る。
足裏魔法ダッシュ――
景色が一瞬で流れる。
まだ気付かれていない。
距離、ゼロ。
右手を装甲へ添える。
――バースト。
音は、無い。
衝撃だけが、掌から内部へ流れ込む。
反作用に合わせて、足裏魔法で身体を逃がす。
一拍遅れて――
シェルライノが血を吐いて崩れた。
俺は右手を見る。
火傷——
中指骨折——
人差し指脱臼——
「……想定内だな」
背後からカイムが降りる。
「お前の想定、毎回怖いんだが」
手を取られる。
回復魔法が流れ込む。
骨が戻る感覚。
皮膚が再生する痒み。
「よし」
手を握る。
「次、行くぞ」
「せめて一息――」
「群れが逃げる」
「はいはい」
二体目——
同じ手順。
足裏魔法ダッシュ。
接近。
右手を添える。
――バースト。
倒れる。
俺は腕を振った。
違和感。
――あ……
肘が曲がらない。
「……カイム、頼む」
カイムが額を押さえた。
「次は肘か……」
回復魔法。
靭帯が戻る感覚。
関節が熱を持つ。
「まだ治せる範囲だが……
無理はするな」
「いや、結構無理してるぞ」
俺は腕を回す。
「ゼロ距離魔法、めちゃくちゃ痛い」
「だったら少しは加減しろ」
「俺は魔力調整出来ん」
「……そうだったな」
――次だ。
三体目を見た時、俺は少し考えた。
ゼロ距離バーストは、人体負荷が強い。
多分このまま続けると――
次は肩。
もしかしたら……
――その内、俺の内臓もやるな。
その時、ふと思った。
――このサイ、中身も売れるのか?
素材の価値は、壊し方で変わる可能性がある。
なら、試す価値はある。
三体目がこちらに気付いた。
突進体勢。
関係ない。
足裏魔法ダッシュ。
接近。
右手を装甲に添える。
魔法を切り替える。
――ゼロ距離アイスショット。
撃った瞬間。
掌に、わずかな振動が走った。
一瞬だけ。
ほんの一瞬。
シェルライノは、そのまま動かなくなった。
「……倒れたな」
問題は――
俺が手を離そうとした時だった。
ベリッ。
「――――っ!!!」
皮膚が剥がれた。
俺は思わず膝をつく。
「痛ぇ!!!」
痛みが、神経を直撃する。
「……これは、想定外だ……!」
急いでカイムが駆け寄る。
回復魔法——
皮膚が再生していく。
「おい……」
カイムが真顔で言う。
「これ、めちゃくちゃ痛いだろ」
「ヤバい。めちゃくちゃ痛い」
俺は息を整える。
「だが……」
カイムが嫌な顔をした。
「まさか」
「もう一回アイスショット付き合え」
「一応、理由を聞くぞ」
「……検証だ」
カイムは天を仰いだ。
「お前、本当に研究者気質だな」
四体目——
同じ動き。
足裏魔法ダッシュ。
接近。
――ゼロ距離アイスショット。
その瞬間、やっぱり来た。
掌に伝わる、一瞬の震え。
内部から砕ける感覚。
「……間違いない」
俺は呟いた。
「中で揺れてる」
「何がだ」
「分からん」
正直に答える。
「だが、多分――」
俺は倒れた個体を見た。
「共振みたいなもんだ」
「みたいって何だ」
「イメージだ」
カイムが呆れた顔をした。
「……格好つけてるとこ悪いが」
手を掴まれる。
「先に治すぞ」
五体目——
アイスショットが使えるなら……
他も気になる。
「――ゼロ距離ウィンドカッター」
結果——
急激な圧力変化で、シェルライノはふらついた。
が、俺の右腕がズタボロになった。
「あー……失敗だな」
血が滴る。
「気体はダメか」
「その結論に至るまでの犠牲がデカい!」
カイムが叫びながら回復を流す。
俺は左手を装甲へ添える。
――バースト。
五体目、終了。
六体目は、難なく終わった。
ゼロ距離バースト。
倒れる。
カイムが腕を組んだ。
「なぁイロハ」
「何だ」
「これ、本来なら大部隊でやる討伐だぞ」
「そうなのか」
「お前、一人でそれに近いことしてる」
俺は首を傾げた。
「その部隊、効率悪いだけだろ」
「普通はゼロ距離なんて発想しない」
「知らん。軍の指南役にでも言え」
俺は地面に並ぶ死体を見た。
「さて、収納するか」
マジックバッグを開く。
一体。
二体。
三体。
四体目の途中で止まった。
「……入らんな」
奥まで押し込む。
無理だ。
俺は振り返った。
「カイム」
「何だ」
「お遣い頼む」
カイムは即答した。
「はいはい」
空へ浮かび上がる。
「絶対、追加で狩るなよ」
俺は手を振った。
「分からん」
「分かれ!」
カイムはそのまま飛び去った。
森が静かになる。
俺は残りの群れを見た。
手を握る。
痛みは、もう消えている。
「……さて」
俺はゆっくりと、腰を下ろした。
「どこまで試せるか」
灰色の装甲は、まだ数匹いる。




