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【第4部】第7話  灯りの裏側

軍の食堂を出ると、

夕刻の空気はわずかに冷えていた。


石畳の通路を歩きながら、カイムが横目で尋ねる。


「……味の感想は?」


俺は間を置かず答えた。


「つまらん味だった」


「おい」


「人間界よりはスパイスが効いている。

 ただ、それだけだ」


カイムは苦笑しながら頭をかく。


「なぁ……

 一応、俺を“魔族国までの護衛”ってのが依頼だった。

 もう完了なんだが、その、すまんな」


「ちなみに報酬は覚えているか?」


「……飯、だったよな」


「正直、期待は出来ん」


「お前の飯の方が遥かに美味いからな……」


俺は肩をすくめた。


「約束は約束だ。

 この後の飯屋、奢ってもらうぞ」


「今、食ったばっかりだろ……」


「つまらん味は腹の足しにもならん」


カイムは小さくため息をついた。


「……分かったよ。

 少し待て。外出許可を取ってくる」




しばらくして戻ってきたカイムは、

どこか複雑な顔をしていた。


「どうした」


「上層部から通達が来てた。

 俺の同行が条件なら、城下までの外出は許可されてる」


「そうか」


俺は即座に踵を返した。


「なら、行くぞ」


「判断が早いな……」




城門を抜けた頃には、

街はすでに夜の支度を始めていた。


店先の灯りが一つ、また一つと灯る。


焼いた肉の匂いと、

発酵酒の甘い香りが混ざり、通りに漂っている。


笑い声。

呼び込みの声。

木製の看板が風に揺れる音。


「この大通り、店が多いな」


「軍関係者や旅人がよく使う。治安も比較的いい」


俺は通りを一瞥し、そしてすぐに興味を失った。


「大通りは、大衆居酒屋だな……

 大衆向けの店は味が平均化されるから、つまらん」


「お前……

 食い物に関してだけ、妙に理屈っぽいよな」


「合理的なだけだ。裏通りに行こう」


「……は?」




一本、路地を曲がる。


灯りは減り、

代わりに赤や紫の光が増えていた。


建物の間は狭い。


空気は少し湿っていて、

酒の匂いに甘い香油の香りが混ざっている。


壁際には、女たちが並んでいた。


露出の多い衣装。

過剰な笑顔。

値踏みするような視線。


「ねぇ、そこのお兄さん――」

「今夜どう――?」

「軍人さん、安くしとくよ――」


声が次々とかかる。


カイムは小さく舌打ちした。


「……ここ、通る必要あるか?」


「ある。穴場は老舗に多い。

 歓楽街は、古い路地から発展する」


「なんだその理屈……」


俺は歩みを止めない。


一人の女が腕を絡めようとした瞬間、

俺は静かに距離を外した。


「すまん。飯が目的なんだ」


「つれないねぇ」


笑い声が背中で弾けた。




さらに奥へ進む。


喧騒が少し遠のいた頃だった。


曲がり角の影から、

靴底が石を擦る小さな音がした。


影が一つ、前へ出る。


街灯の光が、かろうじてその姿を照らした。


背は低い。

衣服は大きすぎて、袖が指先を隠している。

足元の靴は、革が擦り切れていた。




子供だった――




年は十四か十五。


成長の止まり方が、そのあたりを示している。


少女は、慣れた動作で二人の前に立った。


そして、 作り慣れた笑みを浮かべる。


「お兄さん、遊ばない?」

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