第7話 腹が満ちると、頭が回る
宿屋の雰囲気は、ギルドで聞いた通りだった。
可もなく、不可もなく。
値段も、ちょうど真ん中。
――まずは拠点、だな。
案内された部屋は二階。
木の床は少しきしむ。
だが、不快な音ではない。
ベッドは硬め。沈み込みが少ない。
机と椅子が一つずつ。
窓からは通りが少し見える。
――劣化版ビジネスホテル、ってところか。
荷物は、現金の入った大袋のみ。
――これも何とかしないとな……邪魔だし、危険だ。
机に袋を置き、腰を一度だけ回す。
――問題なし。
今日は、とりあえずこれでいい。
時計はないが、空の色でだいたい分かる。
夕方——
腹が鳴いた。
――飯だな。
宿を出て通りを歩く。
人が多い。
声も多い。
香りも強い。
酒場が並ぶ一角に差しかかり、足が止まった。
――居酒屋は……テンプレだよな。
テンプレ=物語が進む。
――今日は進めたくない。
“今日は”と言いながら、
別に進める理由もない。
人の流れから外れ、一本奥の道へ。
さらに外れ、もう一本奥へ。
店構えは小さい。
看板も地味。
だが、窓越しに見えた。
木のカウンター。
落ち着いた照明。
そして――老夫婦。
――ここだな。
扉を開けると、小さな鈴が鳴った。
「いらっしゃい」
穏やかな声だった。
席に座る。
椅子の高さがちょうどいい。
テーブルの角が丸い。
――身体に優しい店だな。
メニューを見る。
だが、分からない。
文字も料理名も、この世界仕様だ。
金はある。
――だからこそ、聞く。
「おすすめを」
老主人は一瞬だけ考え、静かに頷いた。
しばらくして、料理が運ばれてくる。
「こちらを」
皿から湯気が立つ。
豚肉に似たソテー。
それと――
お粥のようなスープ。
一口。
……うまい。
派手さはない。
だが、腹に落ちる。
塩気は強すぎず、
油も軽い。
噛むほどに味が出る。
――ああ……これは、回復だな。
無言で食べる。
誰にも邪魔されない時間。
次は、お粥らしきもの。
一口。
――豆類か?
――野菜の味もするな。
美味い、というほどではない。
だが、身体が拒否しない味だった。
気づけば、皿は空になっていた。
「ごちそうさまでした」
店を出る。
空は、もう暗い。
宿への帰り道。
ふと、武具屋が目に入った。
剣。
槍。
盾。
防具。
一通り、揃っている。
――覗くだけ。
中に入る。
金属の匂い。
油の匂い。
一本の剣を目で追う。
重心。
長さ。
柄の形。
――……動きが固定されるな。
防具を見る。
硬い。
確かに守ってくれる。
だが――
――動きは制限される。
買わない。
触らない。
今日は、まだいい。
店を出て宿へ戻る。
部屋に入り、ベッドへ腰を下ろす。
腹が満ちると、頭が回る。
「さて……」
今日は、ここまでだ。
冒険者としての一日は、
思ったより静かに終わった。




