第6話 やっぱり物理だ。
「兄ちゃん、ちょっといいか?」
振り返ると、
さっきの視線の主たちが立っていた。
二人。
……いや、奥にもう一人いる。
――テンプレだな……。
路地裏に連れ込まれる――
という表現は、少し違う。
正確には、誘導された。
一人が手を伸ばしてくる。
「そのカード、見せてみろよ」
ギルドカード。
正直、渡したくはない。
だが、ここで拒否しても話は進まない。
カードを奪い取った男は、
職業欄を見て一瞬だけ目を見開いた。
「……魔法使い?」
空気が、わずかに張り詰める。
だが次の瞬間、男は鼻で笑った。
「なんだよ。最低のFランクじゃねぇか」
他の男たちも露骨に態度を変える。
肩の力が抜け、声が大きくなる。
「さっきの換金、見てたぜ?」
「金よこせよ、魔法使い様」
「せっかくだ。本物の魔法ってやつ、見せてやるぜ?」
――来たな。
俺は一歩だけ下がり、男たちを観察する。
……というか。
――是非、見せてくれ。
この世界の“魔法使い”。
純粋に興味があった。
前に出てきた一人が、
両手を広げ、詠唱を始める。
――……長いな。いや、無駄に長い。
言葉を紡ぎ、身振りを加え、
集中している“つもり”なのだろうが……
――スキだらけだ。
――それに、あの姿勢……。
狙うなら――腸脛靭帯。
詠唱が終わり、ファイアーボールが放たれる。
軌道は、驚くほど素直だった。
俺は横に一歩ずれながら、相手を観察する。
――やっぱり、踏ん張るよな。
踏ん張るということは、
力を逃がせないということ。
つまり、スキが生まれる。
「なるほど」
思わず口に出た。
「何がなるほどだぁ!!」
怒鳴り声とともに、次の詠唱が始まる。
……遅い。
詠唱中。
つまり――今。
一歩踏み込む。
狙い通り、腸脛靭帯へ一撃。
バシンッ――
抜く打撃ではない。
叩きつける音だった。
「ぐぅっ!!!」
男はその場で悶絶する。
理解が追いついていない顔。
――そりゃそうだ。
魔法を封じたわけでもない。
骨を折ったわけでもない。
ただ――
二度と受けたくない一撃。
――これ、めちゃくちゃ痛いんだよ……すまんな。
奥にいた男が慌てて前に出る。
武器を抜いた。
――ナイフか。もう一人は……
詠唱。
――魔法使いか……だから詠唱長いって。
俺はナイフの男には視線を向けず、
詠唱中の魔法使いを殴り倒す。
そしてナイフの男。
「こ、この野郎!!」
斬りかかってくる。
――頭に血がのぼった奴は、動きが単純で助かる。
読むのはナイフの軌道だけ。
突き出された瞬間、
半歩だけ身体をずらす。
そのまま――
足の甲を踵で踏み抜いた。
「ぐぃ!!!」
悶絶。
女子供の護身術。
だが、体重の乗った男がやれば、
踵はただの凶器になる。
俺は地面に落ちていたギルドカードを拾い、
軽く埃を払って懐に戻した。
「やっぱり物理だよな」
魔法は強力だ。
だが、設計が甘い。
詠唱。反動。姿勢。判断。
改善の余地が、多すぎる。
――……この世界、魔法を過信しすぎだ。
路地を抜け、通りへ戻る。
人々は何も知らず、いつも通りに行き交っている。
「さて」
さすがに腹が減った。
今日は色々あった。
「宿屋、探すか」
異世界での初対人戦闘は、
驚くほどあっさり終わった。
――やっぱり世界が変わっても、
身体だけは正直らしい。




