第5話 金運SS、町に入る
町の門は、思っていたよりも高かった。
石造りの城壁。
鉄で補強された門扉。
ファンタジーにありがちな装飾過多ではない。
実用一点張り――そんな印象だった。
門前に立つ兵士たちの鎧も同じだ。
派手さはないが、整備が行き届いている。
「入場税。一人、銀貨一枚だ」
――来たか。
異世界ものでは定番だ。
町に入るには金がいる。
問題は――
「悪い。今、現金がない」
正直にそう言うと、
兵士は眉一つ動かさなかった。
「では入れない。それだけだ」
あっさりしている。
賄賂を匂わせる様子もない。
交渉の余地もなさそうだった。
――なるほど。ここは“ちゃんとしてる町”か。
理不尽でもなく、優しくもない。
ただ規則通り。
妙に感心しながら、俺は引き下がった。
門の脇で考え込んでいると、背後から声が飛んだ。
「おい、それ……ホーンラビットか?」
振り返ると、いかにも冒険者らしい三人組。
革鎧に武器、そして慣れた目つき。
「二匹いるな。状態もいい」
「傷も……ないみたいだな?」
「……殴ったから」
我ながら意味の分からない返答だった。
だが三人は一瞬沈黙したあと、納得したようにうなずいた。
「なるほど。じゃあ買おう」
「いいのか?」
「町に入りたいんだろ?」
皮と肉で十分元が取れるらしい。
軽い交渉の末、銀貨数枚を受け取った。
――現金、ゲット。
――これも金運SSの効果なのか?
……地味だな。
そのまま門へ戻り、無事入場。
兵士は先ほどと同じ無表情で門を開けた。
町の中は、想像以上に活気がある。
商人の呼び声。
荷車の軋む音。
絶え間なく流れる人の波。
――さて。まずは金だ。
砂金はある。
だが換金所らしき場所が見当たらない。
聞き込みの末、たどり着いたのは冒険者ギルドだった。
登録は拍子抜けするほど簡単だった。
そして砂金を見せた瞬間――
受付の女性が、わずかに目を見開いた。
「……少々お待ちください」
奥へ引っ込み、
戻ってきた時には、口角がほんの少し上がっていた。
態度も、微妙に柔らかい。
結果――
俺は一気に、金持ちになった。
袋に詰められた硬貨の重みが、
やけに現実感を主張してくる。
――ああ……金って、怖いな。
そう思った瞬間だった。
視線を感じる。
ギルドを出た先。
路地の陰に、数人の男たちが立っていた。
服装はまちまち。
だが目が良くない。
獲物を値踏みする目だ。
――金を持った瞬間に、世界が変わる……か。
小さくため息をつく。
どうやらこの町、
“ちゃんとしてる部分”と
“そうじゃない部分”が、
きっちり同居しているらしい。
――異世界生活。
どうやら、まだまだ序盤らしい。




