【第3部】第24話 プレゼンテーション
院長室——
簡素な机。
古い椅子。
壁越しに、子供達の笑い声が微かに届く。
その中央——
俺、カイム、院長。
そして、
第八部隊、副官が座っていた。
副官は腕を組み、静かに俺を見る。
「……話せ」
俺は、頷いた。
「結論から言う。
この孤児院には、軍の介入が必要だ」
院長が息を呑む。
副官の眉が、わずかに動いた。
「理由は三つある」
俺は指を立てた。
一つ目――警備
「この孤児院では、
現在“焼き小麦”が販売されている」
副官が頷く。
「銀貨二枚。
この街じゃ、立派な高級品だ」
「……確かに」
「高額商品が、子供を介して、
定常的に流通している」
一拍。
「何も起きない方が、不自然だ」
副官は、黙った。
「だから、警備が要る」
俺は、淡々と続ける。
「警備費用は売上から出す。昼飯も支給する」
副官が顔を上げた。
「……何を食わせる」
「焼き小麦だ。銀貨二枚相当」
一瞬、沈黙。
「待遇は、悪くない」
副官は、そう言った。
二つ目――育成
「次は、運動の時間だ」
副官が首を傾げる。
「孤児院に?」
「あぁ」
俺は、窓の外を見た。
「体を動かす時間を設ける。
基礎体力、規律、集団行動」
「まるで徴兵だな」
「違う」
即答した。
「選択肢だ」
副官は、黙って聞いている。
「才能の早期発見だ。
それに、就職先の選択肢になる」
院長が目を見開き、俺を見る。
「向いてる奴は軍へ。
向いてない奴は、別の道へ」
「……新兵育成計画、か」
「ついでに言えば。
入隊する頃には、完成度の高い新兵が手に入る」
副官は、否定しなかった。
三つ目――帳簿
俺は、少しだけ間を置いた。
「次は……帳簿管理だ」
院長が、視線を伏せる。
「現在、帳簿は副助祭が管理しています……」
副官が、静かに言った。
「教会の案件だな」
「そうだ」
俺は頷いた。
院長が躊躇いながら言う。
「……私の立場では、
副助祭に強くは――」
俺は、遮った。
「やらかしてるだろ?」
空気が止まった。
副官が、俺を見る。
「……根拠は?」
「院長が売上の不一致に気づいた、よな?
それに他店の人間が、怪しさに気づいた。
売上があるのに、子供の服が変わらないってな」
「……」
「横領してるなら問題だ。
してないなら――」
一拍。
「帳簿管理能力が無い」
副官は、息を吐いた。
俺は、最後に言った。
「副助祭が関わってる以上……
金の流れが不透明であれば、
商人ギルドが動く可能性がある」
「金と教会が絡めば、揉める……か」
「軍が“何もしていない”方が、
後で責任を問われる」
副官は、長く黙った。
やがて――
「……理屈は通っている」
そう言って、顔を上げる。
「警備名目で人を出す。
帳簿は、こちらで確認する」
院長が、目を見開いた。
「ありがとうございます……!」
副官は、俺を見た。
「……お前、
最初から、こうなるのを見てたな」
俺は、肩をすくめる。
「制度はな。
使い方を知ってる奴が、一番強い」
副官は、小さく笑った。
「お前は……戦場より厄介だな」
扉の外は、静かになっていた。
夜も遅い。
だが、その裏側で――
大人の歯車は、
確実に回り始めていた。




