表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/67

【第3部】第22話 善意の帳簿

孤児院の応接室。

副助祭は、終始柔らかな笑顔だった。


「院長も、お忙しいでしょう」


丁寧な声。

角の立たない切り出し方。


「最近は出入りも多い。

 帳簿管理は、なかなか大変かと……」


院長は、言葉に詰まる。


「いえ……ですが……」


副助祭は、被せるように続けた。


「子供に金銭管理を任せるのは、やはり心配です。

 ここは教会として、責任を持って管理しましょう」


善意の塊のような言葉だった。


院長は――


一瞬だけ視線を落とし、小さく頷いた。


「……お願いします」


俺は、黙ってそれを見ていた。


――願ったり叶ったりだ。


何も言わない。

止めもしない。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇



孤児院の庭は、見違えるほど賑やかだった。


簡易の調理場。

木箱を並べただけの食事スペース。


子供達は、自然と役割に分かれている。


材料を運ぶ子。

生地を混ぜる子。

ソースを煮詰める子。


焼き場では、真剣な顔で火を見つめる子がいて。

皿を運ぶ子は、やけに胸を張っている。


「次、三枚いける!」

「熱いから気をつけて!」


冒険者達の笑い声も聞こえる。


自慢話に聞き入って、

手が止まりそうになる子もいる。


「仕事、仕事!」


そう言って、別の子が肘でつつく。


食べ方を丁寧に説明する子もいれば、

皿を運びながら誇らしげな子もいる。


院長は、少し離れた場所に立っていた。

口を挟まず、ただ静かに微笑んでいる。




応接室――


副助祭は、俺と対面に座っている。

帳簿をめくりながら、満足げだった。


「売上が、かなり伸びていますね」


指先で数字を叩く。


「教会としても、把握しておかねばなりません」


俺は、軽く頷いた。


「そうだな」


それだけ呟いた。


――存分にやれ。その方が、話が早い。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇



数日後……


院長は、一人で帳簿を見ていた。

眉が、わずかに寄る。


金額が合わない。

用途が曖昧な支出。


副助祭に尋ねる。


「この項目ですが……」


副助祭は、即座に首を振った。


「あり得ません。

 私が管理しているのですよ?」


声は穏やかだが、断定的だった。


「間違うはずがない」


それ以上、何も言えなかった。




良くも悪くも噂は、

孤児院の外で先に膨らむ。


商人が囁く。


「結構、売れてるらしいな」

「なのに、子供の服は相変わらずだ」


別の店主が、眉をひそめる。


「金……どこに消えてるんじゃないか?」


視線が、少しずつ変わる。

疑いが、空気に混じる。




その日の午後——


孤児院に、兵士が現れた。


「リーフ殿」


俺の前で、直立する。


「お待たせしました。

 第八部隊、副官殿が到着されました」


一拍。


「詰所まで、ご同行願います」


俺は、静かに立ち上がる。


――……いいタイミングだ。


背後で、子供達の笑い声が続いている。

それを一度だけ聞いてから、扉を出た。


歯車は、もう止まらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ