表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/67

【第3部】第21話 制度の歯車

教会から戻って来た俺は、院長室へ向かう。


司祭室と比べてしまう。

相変わらず簡素だ。


――俺にはこの部屋の方が落ち着く。


俺は椅子に腰を下ろし、短く要点だけを伝えた。


「教会に話を通した――」


「孤児院での商いは、教会の庇護下になる――」


院長が息を呑む。


「……治外法権、ということですか」


「正確には、“そう扱われる”ってだけだ」


俺は肩をすくめた。


「十分だろ」


院長は、深く頭を下げた。

言葉は出てこない。


カイムが腕を組んだまま、ぼそっと言う。


「で、俺は?」


「しばらく、俺に捕まってる事にした」


カイムが眉をひそめる。


「捕まってる?」


「魔族を捕らえたってことだ。

 その方が話が早い。

 悪いが、お前は孤児院屋内待機。

 焼き小麦を差し入れする……すまんな」


「……動けないのか」


「動かない方がいい」


カイムは一瞬、

何か言いかけて──やめた。


「……分かった」


自分が“火種”になる可能性を、

理解している顔だった。


俺は続ける。


「役割を振るぞ。

 カイム。子供達に焼き小麦の作り方を教えろ。

 失敗してもいい。むしろ、失敗させろ」


「分かった」


「院長」


院長が顔を上げる。


「冒険者ギルドに行け。

 “美味い飯を開発中。無料試食会をやる”って宣伝してこい」


「無料試食会……場所は?」


「教会の敷地だ」


院長が一瞬、目を見開く。


「……教会にも、食わせる気ですね」


「当然だ」


俺は淡々と答えた。


「教会側が理解する。

 金になるってな、そうなれば――」


「……?」


「食わせた側が、主導権を握れる」


カイムが呆れたように言う。


「お前……腹黒いな」


「ビジネスだ」


「……びじ?……何だ、それ」


「ところで、イロハ殿はどうされるのですか?」


俺は、少し考えて言った。


「俺は別の仕事がある。

 ……悪い虫を寄せ付けないためにな」


「悪い虫……?」


「最後に質問だ。

 ここはまだ、テロワール国領内だな?」


「ええ。

 このロカ・フォルテの街が国境沿いです」


「分かった」


そう言って、立ち上がった。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇



教会の敷地は、ざわつき始めていた。


事前告知と焼き小麦の香り。

冒険者達が集まり、足は自然と止まる。


「なんだこれ」

「……うまいぞ」


鉄板の前には人が並ぶ。

子供達は忙しい中でも、楽しんでいた。


副助祭は、その様子を遠巻きに見ていた。

その手には、孤児院の子供が持ってきた焼き小麦。


一切れ口に運び、ゆっくり噛む。


「……これは」


目が細くなる。


「帳簿管理も、こちらでやってしまえば……」


神の名を口にしながら、計算は早い。


この男は、金の匂いを嗅ぎ取っていた。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇



国境付近の軍詰所。

空気は張り詰めている。


俺が門前に立つと、兵士が槍を交差させた。


「何者だ」


俺は、わずかに間を置いた。


「……第八部隊の軍師、リーフだ」


「!?」


空気が、はっきりと変わる。

俺は淡々と告げた。


「魔族を一名、捕縛した――」


「第八部隊部隊長、もしくは副官を要請する――」


「急ぎだ――」


兵士の顔色が変わった。


「し、失礼しました!」


「俺は孤児院で待つ。あの街だ。

 到着したら知らせろ」


「はっ!」


――そもそも俺の軍師の肩書き、生きてるのか?

――それに(仮)だけどな。


しかし……


――肩書きってのは、便利だな。


子供達のいない場所で、

大人の歯車が、静かに噛み合い始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ