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【第3部】第19話 善意を回す方法

院長室は、簡素だった。


古い机と椅子。

積み上げられた書類。


窓の外から、

子供たちの騒ぐ声が、微かに聞こえてくる。


その音が、

部屋の空気をわずかに柔らかくしていた。


カイムは、無言でマントの留め具を外す。


布が落ちる。




羽根――




魔族の身体が、露わになる。


院長は、一瞬だけ固まった。

目を見開き、言葉を失い――


そして、深く頭を下げた。


「……聞いていた話と、まるで違う」


顔を上げずに続ける。


「今までの噂は……一体……」


「……」


カイムは、何を言えばいいのか分からない様子だった。


俺は、静かに口を挟む。


「黙っておけ。その方がお前たちのためになる」


院長が顔を上げる。


「それに……子供たちは、

 “自分で見て、自分で判断する”方がいい」


俺は、窓の方へ視線を向けた。


――子供には、事実より“考える力”が要る。




俺は、空気を切り替えるように言う。


「ここからが本題だ」


院長が、背筋を伸ばす。


「ここの維持費、キツイだろ?」


「はい」


「院長も、辞められるなら辞めたいだろ?」


「……はい」


「でも、子供たちは放っておけない」


「……はい」


「腹いっぱい食わせたいよな?」


「はい」


一拍。


「なら、『循環』させろ」


「……循環?」


「自営だ。国の補助に売上を足せ」


院長は、わずかに目を伏せる。


「とは言え……

 私たちに、そんな知識も技術も……」


「“焼き小麦”――

 あれの作り方を、全部教える」


「全部……?」


院長の目が揺れた。


「あぁ、全部だ。

 山芋の収穫から、調理、販売まで。

 初期投資も含めて――全部だ」


即答だった。


院長は、しばらく黙り込む。

やがて、慎重に口を開いた。


「……それは、あなたの富に繋がる話では?

 なぜ、ここまで……」


一拍。


俺は、淡々と答える。


「大した理由じゃない」


視線を逸らさず、続けた。


「子供が……

 “楽しく”飯を食えない環境が、気に入らないだけだ」


院長が、何か言おうと口を開く。


だが、俺は被せる。


「腹が減ってると、人は考えられなくなる。

 思想を、そのまま飲み込む……それだけだ」


院長は、完全に言葉を失った。

やがて、静かに首を振る。


「ありがとうございます。

 ですが……問題があります」


声は冷静だった。


「おっしゃる通り、

 この孤児院は教会の管轄です。

 それに……商売となれば、

 ギルドの管理下に入る必要があります」


院長は、指を組み直す。


「日々の管理だけで、私は手一杯です。

 金の管理を、子供に任せることは……できません」


並べられるのは、現実だけだった。


俺は、しばらく黙る。


――正しい。だからこそ、面倒だな。


そして、口を開いた。


「……なら、法の抜け道を使うまでだ」


院長が、目を見開く。


「抜け道……?」


俺は、窓の外を見る。

子供たちの声が、はっきり聞こえた。


「この街に、教会はあるな?」


院長は、ゆっくりと頷く。


「……あります。街の中心に」



――制度は、壁じゃない。


――使い方を知らないだけだ。



その言葉は、胸の内に留めたまま――


室内には、

子供たちの笑い声だけが残っていた。


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