表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/73

【第3部】第18話 美味いは、差別を超える

朝なのに、路地裏は騒がしかった。


昨日と同じ場所に、

俺たちは足を踏み入れる。


すると――


見覚えのある兄妹がこちらに気づいた。

俺は軽く手を上げて言う。


「朝飯、食ったか?」


兄妹は顔を見合わせ、首を横に振る。


「だよな」


俺は、あっさり続けた。


「昨日の孤児院、見学させてくれた礼だ。

 美味いもん食わせてやる――食いたいか?」


「……うん」


「なら、手伝え」


兄妹は、笑ってついてきた。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇



孤児院は、昨日と同じだった。


古い建物。

質素な中庭。


中央に火を起こし、

鉄板を用意する。


院長の声で、

残っていた子供たちも集まってきた。


俺は荷を置き、

全員に届く声で言う。


「昨日、見学させてくれた礼だ!

 みんなに美味いもん食わせてやる!」


「やったー!」

「ありがとー!!」

「お腹空いてたんだぁ」


「でもな……人数分作るのは大変なんだ。

 そこで――」


ざわ、と空気が揺れる。


「みんなで焼くぞ」


「おぉー!!!」

「え?焼く???」

「早く食べたい!」

「作るー!!」


様々な声が上がる。


――食に対する興味は、まだ残っているな。


子供たちの視線が集まる。


「やり方を……そうだな」


俺は、横を指した。


「カイムがやる。

 みんな、よく見てろ」


「お、俺?」


カイムの声が裏返る。


鉄板の前に立つカイムは、

明らかに緊張していた。


生地を流す。

広げる。


ジワッ、と火が通っていく。


カイムは両手にヘラを持ち、

ひっくり返そうとして――


盛大に失敗した。


生地が歪み、端が折れる。


慌てて形を整え、誤魔化す。

視線をちらりと子供たちへ向ける。


だが――


子供たちの視線は、

鉄板の上に釘付けだった。


カイムは、小さく息を吐く。


次の一枚。


ヘラを差し込み――


「ふん!」


勢いよく、ひっくり返す。


その瞬間――


マントの内側で何かが揺れた。


一瞬、羽根が覗く。


「……あ」


カイムが、小さく声を漏らす。


だが、誰も気づかない。


子供たちの目は、

綺麗に返った生地に釘付けだった。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「カイム、ソースだ」


イロハの声に、我に返った。


ソースをかける。


ジュッ――と音が弾ける。

甘酸っぱい匂いが立ち上る。


「そして……これをかけるぞ」


イロハは干し肉を取り出し、

おろし金で削る。


しゃり、しゃり――


脂が溶け、香りが重なる。


最後に、パセリ。


緑が散った。


「さぁ……食え」


イロハが子供たちに言った。


子供たちは、一斉に動いた。


「うまい!」

「おいしい!」

「もっと食べたい!」


手が伸び、口が動く。


俺も、端を一口――


「!?!?!?」


――干し肉があると無いでは全然違う!

――ソースを吸って、“肉”として蘇っている!

――燻製の香ばしさが加わる……!


――……あぁ。

――食べ終わるのが怖い。

――胃袋が、もっとくれと叫んでやがる。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇



院長が、ふとカイムを見る。


視線が止まる。

空気が、一瞬だけ張り詰めた。


「……まさか……魔族、です…か?」


俺は言う。


「だからどうした?」


そして、続ける。


「子供たちを見てみろ」


院長は、何も言わなかった。


そして――


あの兄妹の妹が、カイムに近づく。


少しだけ躊躇して、

それから、


笑った――


「おじちゃんは、優しい魔族さんなんだね!」


カイムは固まった。


目を瞬かせ、

口を開き、閉じる。


それでも、否定はしなかった。


「よ、よし!」


声を張る。


「今度は自分たちで焼いてみるんだ!

 俺のやり方、覚えたな!?やってみろ!」


「はーい!!」


元気な声が返る。

子供たちが鉄板に集まる。


笑い声。

小さな失敗。


俺は、少し離れた場所でそれを見る。


朝の孤児院に残ったのは――


ただ、楽しそうな空気だけだった。


――これでいい。

――この焼き小麦は栄養価も高い。


それよりも――


「食べるってのは、楽しいもんなんだよ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ