【第3部】第17話 ノーマルスキルで異世界パクリ飯
俺は鍋に向かう。
作るのは『おたふくソース』
……完全再現は無理。
だから、
正しくは、おたふくソース”風もどき”
――よし、作るぞ
まず、取り出したのは、
干しブドウと乾物ベリー。
これをお湯に入れ、煮詰める。
やがて、香りが立つ。
「おぉ!なんだこの臭い!?」
カイムが反応した。
濃縮された果実の甘い香りと、わずかな発酵臭。
俺は丁寧にアクを取っていく。
次は――裏ごし。
パンパンに膨らんだ果実を、布に包む。
木ベラでしっかりと押し潰す。
布の裏から、ドロリとした濃紫色が滴り落ちる。
「おい、その布の中身は使わないのか?
もったいなぞ?」
「残ったカスはパンにでも塗ってやれ。
このソースは口触りが命なんだ」
そして、
鍋に裏ごししたベリーソースに
ビネガーを入れ、煮詰める。
「おぉ!なんだこのツヤ!?
こんなにキレイになるのか!?」
「いちいちうるさい。
お前にも仕事をやる。
黒パンを徹底的に焼け。
カチカチになるまで、焼け。
その間に山芋をすりおろせ」
「……あぁ」
――これはハッキリ言って高級ソースだ。
――見た目の美しさは絶対必要。
――それに、殺菌処理にもなる。
ドロリ――とトロミが出てきた。
仕上げは、黒胡椒をメインにスパイスを振る。
「おい、山芋はすれたか?少し貰うぞ」
軽く混ぜる。
――後は味だが……
一口舐める。
俺は笑わずにはいられなかった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
俺は……飽きた。
パンを焼いた。
山芋をすった。
そして飽きた。
イロハが歩み寄って、言う。
「おい、これ舐めてみろ」
さっきのツヤがあるソースだった。
俺は一口舐める。
「!!??」
――なんだこれは!?
――濃い!濃密すぎる!
――最初にガツンと来るのは、
――フルーツを100倍に濃縮したような『暴力的な甘み』!
――すぐにリンゴ酢の鋭い酸味が追いかけてる!
ゴクン……
「!?!?!?!?」
――黒胡椒のピリッとした刺激!
――その奥でクローブのオリエンタルな香りが鼻を抜ける。
――凄いのは、この『とろみ』だ。
――ただのソースじゃない!山芋だ!
――舌にネットリと絡みついて離れない。
――旨味の余韻がいつまでも続く……
――これ、飲めるぞ?最高だろ!?
「これ……売れるぞ」
俺は思わず言ってしまった。
「だろ?そして想像してみろ」
「……何をだ?」
「焼き小麦にこれをかけたら、だ」
「……反則だろ」
「やるぞ、カイム。
石を持て。パンを砕け」
俺はその辺に落ちている石を拾い、
布に包んだ黒パンを……
叩く。
叩く。
叩く。
「なるべく細かくしろ」
イロハはその間に、
ムカゴを塩茹でにし、粗く刻む。
「イロハ、このぐらいでどうだ?」
「いいぞ」
黒パンだった物をイロハに渡す。
すり下ろした山芋。
茹でた刻んだムカゴ。
そして、黒パンだった物。
混ぜる。
俺は、何も言わない。
ただ、喉を鳴らしていた。
焼く。
ソースをかける。
食べる。
「……美味い。それしか言えん」
「だろ?」
「もう一枚、焼かないか?」
イロハは、黙って頷いた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
カイムが無言でもう一枚を食べる。
俺はそれを横目に、
最後の一口を噛み締めながら考えた。
――マヨネーズ……
あれは嫌いだ。
別に無くても困らん。
だが……
――物足りない。
味は間違いない。
食感もモッチリとしている。
イメージ通りだった。
――鰹節と、青のりは……難しいな
それに…
――もっとコッテリ感を出したい。
肉を焼くか?
いや、この世界の売り肉は衛生上怖い。
なら……
――干し肉?
いや、斬る手間と食感がミスマッチになる……
「んーーーー……」
夜の草原。
静かな焚き火。
――あ。
「明日……やってみるか」
炎が、揺れていた。




