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【第3部】第15話 横に掘れ

孤児院を出て、必要な物を揃えた。


スコップ。

シャベル。

籠。


籠にスコップとシャベルを入れ、

2人で山へ向かった。


道は細く、踏み固められていない。


「なぜ山だ」


歩きながら、俺は言った。


「なぜ、山芋なんだ」


イロハは前を向いたまま答える。


「この時期が、一番美味い」


それ以上は言わない。


風が、少し冷たい。

季節が、動いている。




山に入る。


イロハは立ち止まり、周囲を見た。


「葉を探せ。ハート型だ」


俺も視線を周囲に向ける。


「ツルは右巻きだ。間違えるなよ」


2人で手分けして探す。


――ツル…と言ったな。


――木に絡まっているってことか。


――ん?


「おい、イロハ……これか?」


「そうだ」


イロハは地面を見た。

俺もつられて地面を見る。


微妙な盛り上がり。

踏んだ時の違和感。


「ここを掘るのか?」


イロハは首を振った。


「まず、横だ。横穴を掘る」


縦に掘らない。

横に、少しずつ。


土を削る。

焦らない。


力任せにやれば、折れるらしい。


『観察と我慢』だそうだ。




掘りながら、俺は聞いた。


「……なぜ、孤児院に寄付をしなかった?」


イロハは、手を止めない。


「寄付は否定しない」


少し、土を払う。


「だが、今を楽にするだけだ」


さらに、掘る。


「明日も来年も同じなら、意味がない」


「……」


「水をやるのは簡単だ。

 でも、井戸がなきゃ、また渇く」


俺は、黙って掘る。




しばらくして、

土の中から、山芋が姿を見せる。


イロハが言う。


「折らない。抜かない」


軽く振ると、スッと土から出てきた。


成功の様だ。


イロハが、静かに言った。


「これを使った方が、美味いんだよ」


「……」


「俺は、それが食いたい」




掘り終えた直後——


「おい、その実も採れ」


イロハが指さす。


ツルの先。

小さな実。


「……なんだ、これは?」


「ムカゴだ」


籠に入れる。


「茹でると、美味い。

 それに、栄養が豊富だ。」


「これが、ねぇ…」


イロハは1つ摘んで呟いた。


「……あの子達には、必要だ」


俺は――言葉を失った。




ムカゴを摘んでいると、イロハが言った。


「採り過ぎるなよ。

 採り過ぎた分は、土に戻せ」


「植えるのか?」


イロハは、少しだけ間を置く。


「……あぁ。

 忘れた頃に、また食える」


それ以上は言わなかった。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇



山を下りながら、

俺は考えていた。


これは、


――慈善じゃない。

――施しでもない。


こいつは、


――未来を、相手にしている。


木を踏んだ音が、静かに響いていた。



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