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【第3部】第12話 奪っているだけ

夜、イロハは簡単に言った。


「ギルドで換金して、Cランクに上がった」


それだけだ。


宿でのやり取りには触れない。

誰が、何を言ったかも。


カイムは、少しだけ引っかかったが、

何も聞かなかった。


聞かれなかった話は、

話されないまま、そこに残る。




翌朝、宿を出た。

朝飯を探して、路地に入る。


人の気配はある。

だが、大人が少ない。


代わりに、子供が多い。


立っている。

座っている。

壁にもたれている。


身なりも、

キレイとは言えない。


遊んでいるようで、

そうでもない。


カイムは声を落として説明した。


「……この辺りは、俺たち、魔族の国に近い。

 戦争で、親を失った子も多い」


イロハは、短く言った。


「孤児、か」


それ以上は、なかった。




路地の奥で、声がした。

宗教家らしき男が、兄妹に語っている。


身振りは大きい。

言葉は、よどみない。


男は、こちらに気づいた。


目線はカイム——


いや、正確には隠しきれていない、

マント越しの羽根へ。


そして、小さく呟いた。


「……噂の魔族か」


すぐに視線を戻し、

兄妹に語りかける。


「魔族は悪だ――」


「神がそう定めている――」


「ああいう存在が、この世界を歪めるのだ――」


兄妹は、何も言わない。


否定もしない。

肯定もしない。


ただ、

男の言葉をなぞるように、頷いていた。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇




――違うな。


理解している顔じゃない。

覚えているだけの顔だ。


俺は、一歩踏み出す。


そして、男の手首を掴む。

確実に、痛みが出る掴み方で。


さらに腕を捻る。

俺の目を、見ざるをえなくするために。


――すまんな、カイム。


――この土俵、壊さないといけない。


俺は、静かに言った。


「今、誰に話してる?」


男が答える。


「!……子供だ……」


「大人の都合を、子供の頭に流し込むな」


「……」


「考える前に、答えを渡すな」


「………」


「それは教えじゃない。

 奪ってるだけだ」


声は荒れていない。


だが、

男には逃げ場もない。




俺は手を緩める。

男はすぐ、手を振りほどいた。


後ずさりしながら、叫ぶ。


「この私に手を出したこと、覚えておけ!」


「……」


「必ず!神の裁きで!お前を業火に包んでやる!」


言い捨てて、去っていく。


足音だけが、残った。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇




俺は唖然とした。


――こいつが、怒るとはな……


兄妹の方を見る。

兄妹は、何も言わない。


ただ、イロハを見ていた。


イロハは、少しだけ間を置く。

そして、言った。


「お前たち、朝飯まだか?」


兄妹は頷いた。


「店、知ってたら案内しろ。

 そしたら……奢ってやる」


それだけだ。


歩き出す。


兄妹は、顔を見合わせ、

小さく頷いて、ついていく。


俺は、その背中を見る。


――この男は、差別で怒らない。


――敵意でもない。


――怒るのは、思考を奪った時だ。


――しかも……


一拍。


――子供のことで、だ。


路地に、朝の光が差し込んでいた。


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