【第3部】第8話 儲け×風習≠人として
村が見えた。
丘を越えたところに、
屋根が並んでいるのが見えた。
その瞬間、
カイムの足が、止まった。
「……俺は、ここで待つ」
理由は言わなかった。
言わなくても、だいたい察しはつく。
「行くぞ」
俺は振り返りもせずに言った。
「用があるのは村だ。
お前も、だろ」
そう言って、歩調を緩めることもなく進む。
結局、カイムは何も言わずに後ろをついてきた。
村の中に足を入れた瞬間、空気が変わった。
ざわめき。
視線。
声になりきらない声。
「……なんで、魔族が……」
「あの人間…大丈夫なのか?」
「帰れ……」
誰か一人の言葉ではなかった。
村全体が、そう言っているような感じだった。
俺は、何も言わない。
そのまま通りを歩く。
石が飛んだ。
乾いた音がした。
カイムに当たったようだ。
続けて、もう一つ石が飛んでくる。
カイムの羽根が、わずかに揺れる。
その時――
「な、なにをしにきたんだ!」
「魔族がこの村に何のようだ!」
「出ていけ!!」
一人の声が増えていく。
飛んでくる石も増えている。
カイムに当たる。
俺にも何個か当たった。
――大人が投げれば、子供も投げる…か。
カイムの肩が震える。
視線が鋭くなり、羽根が広がりだす。
何か言おうとした、その時——
俺は呟いた。
「腹減ったな」
「……」
「そこの屋台、寄ろう」
石のことには、一切触れない。
ただ、進路を変えて屋台の前に立つ。
「美味そうだな…何の肉だ?」
「!?——し…鹿だ」
「お前も食うだろ?」
「……」
「二つ頼む」
俺はカイムを見て、顎で示す。
「払え」
屋台の店主は、明らかに怯えていた。
だが、手は止めなかった。
仕事は仕事、という顔だった。
品物を受け取り、一言だけ伝えた。
「美味そうだ。ありがとう」
それ以上でも、それ以下でもない。
少し歩いた先に、武具屋があった。
「……魔族に売る物はない」
店主は、怯えながらも、
はっきりと言った。
カイムが一歩引く。
そのまま去ろうとした。
「なぜだ?」
俺は、静かに聞いた。
「魔族は人間の敵だ。信用できない」
「……なら」
俺は少し考えてから言った。
「物欲まみれの人間にも、売らないのか?」
問うた。
責めるでも、笑うでもない。
店主は言葉に詰まる。
俺はそれ以上待たず、店に入った。
「お前も来い」
カイムはゆっくりと店内に入る。
店主と目を合わせない様に、武具だけを見ていた。
「おい、これなんてどうだ?」
俺は黒いマントをカイムに向けた。
「……少しデカいか?
店主、丈を詰めてくれ」
店主は嫌々ながらも、採寸をする。
もちろん、距離はある。
半ば適当に。
店主は奥に入り作業に入った。
俺達はゆっくり武具を見渡す。
片手剣で目線を止めた。
――八部隊の奴ら、上手くやってるか……
しばらくして、店主は戻った。
マントは静かにカウンターに置かれた。
カイムは金を払い、受け取った。
マントの端を見ていた。
――キレイに整えられているな。
カイムは店主に向き直る。
「迷惑をかけた。良い品をありがとう」
店主は、何も言わなかった。
去り際、俺は店主に聞こえる声で呟いた。
「儲けか――
風習か――
――人として、か?」
村を出る。
背後で、ざわめきはまだ残っている。
何かが解決した様子は、どこにもない。
ただ、空気だけが、ほんの少し揺れていた。
俺は、振り返らない。
そのまま歩き続けた。
夜が、静かに近づいていた。




