表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/68

【第3部】第5話 同じ釜の飯

「……腹減った」


目が覚めた。


音もなく、

匂いもなく、


ただ、胃が主張する。


空っぽだ――っと。


体を起こす。


壊れかけの家屋。

朝の光が、壁の隙間から差し込んでいる。


向かいの――

翼の男は、もう起きていた。


隅に座り、こちらを見ている。


逃げる様子はない。

威嚇も、ない。


俺は「傷口見るぞ」と一言声をかけ、近づいた。


布をほどく。


血は止まっている。

滲みもない。


「……問題なさそうだな」


独り言。

診断じゃない。確認だ。


俺は医者じゃない。

それは、分かっている。


新しい布を用意し、巻き直す。


巻き直しながら、思った。


――汁物が食いたいな。


理由はない。

朝だから、というだけだ。


布を片付け、マジックバッグを漁る。


――お好み焼きの材料は余ってるから……


取り出したのは、


小麦。

水。

塩。


――十分だ。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇



鍋を置く。


小麦を入れ、水を加え、塩。


――この塩があるかないかで、違うんだよな。


練る。

練って、練って、練りまくる。


そして、まとめる。


布に包み、床に置いた。


その時だった。


「……何をしている?」


背後から、声。


「うどんだ」


即答。


「……うどん?」


戸惑いの声。


俺は気にせず、布を踏む。


ぎゅっ。


もう一度。


踏む。


繰り返す。


ひたすらに。


やがて、足音が近づいた。


「……食べ物、なのか?」


「あぁ」


「……食べ物なのに、足を使うのか?」


「あぁ」


「手じゃダメなのか?」


「ダメだ」


「足に、意味があるのか?」


「コシが出る」


翼の男は、少し考えてから、

布の前に立った。


「……美味いのか?」


「さぁな。

 食いたきゃ手伝え。足は動くだろ?」


「……分かった」


「じゃあ、頼む」


交代。


数を数える。


五十。

六十。

七十。


百で交代。


理由はない。

勝手に決めた。


何回か繰り返した。


――そろそろか?


布をめくる。

まぁまぁのツヤ。


――多分、大丈夫……な、はず。きっと。


「……これで、食えるのか?」


「いや、まだだ」


「焼くのか?」


「寝かせる」


「……?」


「このまま、しばらく放置ってことだ」


「何のためだ?」


「しなやかになる。伸びる」


「よく分からん」


「この無駄を楽しむんだよ」


「……非効率な料理だな」


俺はもう二つの鍋を用意し、火にかける。


下処理済みの鶏肉。

丸々一匹を捌く。


――とりあえず、半分でいいか。


両断。


部位ごとに削ぎ落としていく。


骨を見て、ふと思う。


――鳥の骨ってスカスカなんだよな。


昨夜の思考が蘇る。


鳥は、筋肉だけで飛んでいるわけじゃない。

この骨が重要だ。


――確か……含気骨、だったか。


スカスカの骨は、肺の延長。

空気が入っている。


軽いから、飛べる。


――まぁ、知ってる奴の方が少ないけどな。


ちらりと奴を見る。


――やっぱり猫背か……体重も軽いのかもな。


考えは、そこで止めた。


沸いた鍋に鶏肉と、

骨を袋状の布に入れて、投下。


そして、麺を切る。

太さは、まちまち。


もう一つの鍋に、麺を入れる。


「おい」


「……なんだ?」


「たまに、これでかき混ぜろ」


「……分かった」


生麺だから、茹で時間は長い。


その間に、家屋を探る。


丼ぶり代わりを探して、

サラダボウルを見つけた。


――これで、いいか。


戻る。


鍋に塩を入れる。


麺を引き上げる。


サラダボウルに麺を入れ、スープを注ぐ。


男が言う。


「……やっぱり効率が悪い料理だ」


「でも、美味いぞ」


男飯だ。

見た目は、ひどい。


二人で、食う。


しばらくして――


「……美味いな」


ぽつりと、こぼした。


「だろ?」


短く返す。


それ以上は、言わない。


名前も、立場も、

まだ何も分からない。


ただ――


同じ釜の飯を食った。


それだけの事実が、

そこに残っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ