【第3部】第4話 距離の取り方
日が傾いていた。
空の色が、少しずつ薄くなっていく。
赤でもなく、青でもない時間。
蝋燭に火を灯す。
食事は――迷ったが、やめた。
そもそも、こいつはいつからいる?
何か食べているのか。
飲んでいるのか。
それとも――食べられないのか。
状況が分からない中、
会話も成立しない中、
俺だけ食べるのは、何か違う気がした。
腹は減っているが、そこまででもない。
こういう時は、寝るに限る。
すきま風が、蝋燭の火を揺らす。
血の匂いは、薄れていた。
俺は地面に横になる。
石も、草も、そのままだ。
目を閉じる。
――まぁ、眠れる気はしないんだが。
こういう時は、潜る。
思考の中へ。
考え始めると、止まらない。
いつものことだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
人型に、羽根か……
どう考えても、無理がある。
人間の胸筋で飛ぶのは、現実的じゃない。
そもそも、
胸筋2〜3メートル理論だって、誇張が混じっている。
鳥は、胸筋だけで飛んでいるわけじゃない。
骨格。
空洞。
重心。
――なら、こいつは……
魔力……と考えるには、まだ早い。
魔力で浮けるなら、羽根はいらない。
何のために、羽根を使う?
気分か?
気分なのか?
そういうテンプレか?
異世界あるあるなのか?
「……」
肩の動きと、羽根の動きは分離していた。
ということは、
本来の肩甲骨は存在しているはず。
――肩甲骨が、もう一枚あるのか?
腕用と、翼用。
独立した可動域。
――あるはずだ。無いと成立しない。
その肩甲骨を動かしているのは、なんだ?
大胸筋のボリュームから考えるには……可能性は薄い。
だが、同じように肩甲骨を動かす筋肉なのは間違いない。
翼……肩甲骨……翼状肩甲……
――!!
前鋸筋……!
可能性はある。
もし――
一つの前鋸筋が、肩の肩甲骨と、
翼の肩甲骨にくっついていたら。
その線維が、
大胸筋の代わりをしている可能性がある。
――そうなると。
姿勢は、前傾気味になる。
胸は張れない。
――猫背になるな。たぶん、無意識に。
姿勢――
それだけ、明日確認しよう。
俺は一度、目を開ける。
蝋燭の火が、柔らかい。
少し離れたところで――
奴は、こちらを見ていた。
目が合う。
無防備に横になっている俺を見て、
動きを止めていた。
俺は、何も言わずに――
蝋燭の火を消した。




