【第3部】第3話 止血
羽根は、近くで見ると想像よりも大きかった。
広げれば、背中の幅を大きく越える。
折り畳まれている今でも、その存在感は消えない。
人型の体に、これだけの羽根。
――本当に、飛べるのか?
姿形は人間だ。
色は褐色。
違うのは、羽根があるだけ――だが。
人が羽根で飛ぶには、無理がある。
胸筋は、最低でも2〜3メートル必要という話もある。
そもそも、
こいつはどうやって羽根を動かしている?
肩甲骨か?
異常発達している可能性はある。
だが、それだけで説明できるとは思えない。
――肩甲骨の異常発達なら、
――羽根を動かした時に肩は挙がらないはずだ……
なら、骨が多いのか?
であれば、普通とは違う筋肉があるはずだ。
――うん。面白い。
まぁ、
この世界で考えたら、魔法的な補助――だよな。
考えたところで、確証はない。
仮説は、並ぶ。
仮説が増えれば、好奇心も湧く。
――触ってみたいな……
視線を下げると、
血が、まだ落ちていた。
乾ききっていない。
――とは言え、まずは止血か。
俺は、ゆっくりと口を開いた。
「……痛むか?」
「……」
「……とりあえず、止血するぞ?」
「……」
「……すまんが、
お前みたいな奴の体を触るのは初めてなんだ」
相手は動かない。
返事もしない。
だが――
拒否が無い、ということは肯定と受け取る。
「羽根の動きを邪魔しないように止血したい」
間を置く。
「一度、羽根を動かしてもらえるか?」
返事はない。
だが、次の瞬間――
羽根が動いた。
バサバサ――
風が起きる。
羽根だけが、動いている。
――なるほど。
「……助かる。ちなみに、腕は挙がるのか?」
羽根を動かしながら、
肩を回した。
羽根と腕は、独立している。
完全に、別系統だ。
――であれば……
「一度、体を触るぞ」
傷口周囲に触れる。
化膿はなさそうだ。
熱感も、そこまで強くない。
――感染は無さそうだな。
――傷の深さも、浅くはない。
――だが、致命的でもない。
俺は医者じゃない。
深部までは分からない。
感染していない――というのも、可能性の話だ。
消毒が理想だが、
酒も、他に使えるものもない。
熱処理――という選択肢が頭をよぎる。
だが、すぐに消した。
信頼関係がない。
リスクが高すぎる。
――無理は、しない。
布を裂き、
血の流れを見ながら巻く。
きつすぎないように。
なるべく羽根の動きを邪魔しないように。
治す、じゃない。
血を、止めるだけだ。
作業の間、
相手は逃げなかった。
威嚇も、しない。
空気が、少しだけ変わる。
「……きつくないか?」
「……」
状態が分からない以上、放置は出来ない。
――しばらく、一緒に様子を見るか。
害がなければ、敵じゃない。
言葉は――まだ要らない。




