【第2部】第23話 勝負飯と、流れ者
屋台を出した。
理由は、単純だ。
腹が減った時に、
いつでも食えるようにするため。
場所は、城下町の端。
人通りは多くないが、兵の帰路にはちょうどいい。
鉄板。
木箱。
雑に書いた看板。
《焼き小麦》
名前は適当だ。
たまたま目の前を通った子供に書かせた。
最初に来たのは、第八部隊の兵だった。
「やっぱり、ここでしたか!」
説明はいらない。
勝手に並び、
勝手に待つ。
俺は焼く。
ひっくり返す。
切る。
それだけ。
『今日はこれだな……』
いつの間にか、誰かが言った。
“勝負飯”。
誰が決めたわけでもない。
だが、定着するには十分だった。
模擬戦の日。
訓練がきつい日。
気合を入れたい日。
第八部隊の兵たちは、
無言でこの屋台に集まり、
無言で食い、
無言で散っていく。
言葉はいらなかった。
しばらくして、変化が起きた。
隣に、別の屋台が出た。
その隣にも。
真似だ。
焼き小麦。
ソース風の何か。
具材は各店バラバラ。
出来は……
正直、微妙な店も多い。
でも、いい。
「選べる」ってのが、大事だ。
ある日、ふと思った。
――もう、
――俺が焼かなくても、いつでも食えるな。
屋台を畳んだ。
誰にも言わず。
引き継ぎもせず。
次の日も……
その次の日も……
城下町では、焼き小麦が焼かれていた。
兵も。
町人も。
普通に食っている。
「……これでいい」
俺がいなくても、回る。
俺がいなくても、残る。
俺が焼かなくても、食える。
それが一番、性に合う。
数日後——
第八部隊の詰所に顔を出した。
部隊長は、すぐに気づいた。
「……行くのか」
「ああ」
理由は言わない。
聞かれもしない。
副官が、少し困った顔で笑う。
「急ですね」
「流れ者だし」
いつもの調子だ。
部隊長は、しばらく黙っていた。
やがて、静かに言った。
「……礼は言わん」
「それでいい」
「お前が残したものは、使う」
「好きにしろ」
短い握手。
それだけ。
約束はしない――
でも、信頼はある――
それで十分だ。
城を出る。
振り返らない。
俺は、ただの旅人だ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
そして――
この国は、
この国の第八部隊は、
やがて、
魔族軍に大きな影響を与えることになる。
その始まりが、
戦術でも、
英雄でもなく――
奇抜な思想と、
鉄板の上で焼かれた、
一枚の飯だったことを。
俺は、ただ……
少し腹が減ったな、と思いながら、
適当な方向へ歩いていくだけだ。
【第二部・完】
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