【第2部】第22話 鉄板の上の戦場
第八部隊には、食堂がある。
おかわり自由が無ければ、リピートしない。
そんな程度の味を出す食堂だ。
食事の時間と、かけ離れた時間を選んだ。
食堂には誰もいない。
でも一言呟く。
「……使うぞ」
鉄板はない。
代わりに、分厚い金属板。
用途不明だが、熱は均一に回りそうだ。
――十分だ。
小麦粉。 水。卵。 刻んだ野菜。
肉は、適当な端切れ。
――分量?
知らん。
俺は料理人じゃない。
理学療法士だ。
再現性より、反応を見る。
それでいい。
ソースはカムリーヌ・ソースを使う。
超高級品だ。
店主に無理言って試飲させてもらったが、
これが一番、それっぽかった。
「……リーフ殿?何をしてるのですか?」
背後から声。
振り返ると、第八部隊の兵が数人。
訓練が早目に切り終わったのか、
腹を空かせた顔をしている。
「実験」
「……は?」
「腹が減ってる奴、手伝え」
説明はそれだけ。
兵たちは顔を見合わせたが、 誰も帰らなかった。
――こういう所は、こいつら素直だ。
刻む。 混ぜる。 鉄板に落とす。
ジュッ――
音が鳴った瞬間、 空気が変わった。
「……なんだ、この匂い」
「焼き、ですか?」
「いや……焼きだけど、違う」
言葉が追いついていない。
カムリーヌ・ソースを、上から垂らす。
焦げる音。
甘さと酸味が混ざった匂い。
「ひっくり返すぞ」
「えっ?」
鉄板の上で、円盤が返る。
ジュワッ。
完全に、静まった。
「……」
「……」
誰も喋らない。
ただ、見ている。
焼き上がり。
皿はない。
適当に切り分ける。
「食え」
一瞬の躊躇。
そして――
「……うまっ」
誰かが、そう言った。
そこからは、早かった。
「なんだこれ!?」
「腹に来る」
「重いのに、食える!」
笑い声。
皿を持つ手。
勝手に刻み始める奴。
「もう一枚いけます?」
「自分、焼きます!」
――そうだ。これが“飯”だ。
ただの栄養じゃない。
場を作る飯。
気づけば、人が増えていた。
副官も、いつの間にかいた。
「……何をしているんです……?」
「見ての通りだ。食うか?」
「……頂き、ます」
兵たちを見て、副官は言葉を失う。
階級も役割も関係ない。
同じ鉄板を囲っている。
「これ……屋台にしたら、売れますよ」
誰かが、冗談半分に言った。
俺は、鉄板を見ながら答える。
「……ああ。いけるな」
副官が、目を見開く。
「本気で?」
「さぁな」
肩をすくめる。
「俺、観光中だし」
兵たちが笑う。
でも、その笑いの中に――
妙な確信が混じっていた。
『同じ釜の飯を食う』
ただ、それだけの行為が――
誰が何をやるかを、
言葉より先に決めていく。
無意識に生まれた役割分担が、
やがて、戦場で、
“言葉の要らない瞬間”を作ることを――
誰も、知らない。
俺はただ、
鉄板の上で、 次の一枚を焼いているだけだ。




