【第2部】第17話 部隊長対副官 ―― 理解不能な戦い
城から少し離れた荒野。
見渡す限り、遮るものはない。
その中央に、二つの部隊が向かい合っていた。
俺の部隊と――
副官・リーフの部隊――
風が吹き抜け、草が揺れる。
木剣と木盾が、かすかに鳴った。
――静かすぎる。
俺は、そう感じていた。
「――前進!」
号令と同時に、俺の部隊は一斉に走り出す。
これまで何度も繰り返してきたやり方だ。
距離を詰め、勢いで押し切る。
副官の部隊は、中央に盾兵を並べていた。
正面から受けるつもりらしい。
……なら、早い。
そう思った、次の瞬間だった。
盾部隊が、中央から引いた。
逃げた?
いや、違う。
撤収だ。
整然と、無駄なく。
まるで最初から決まっていたかのように。
「……?」
自然と中央が、最前線になる。
一瞬、頭が追いつかない。
だが、考える暇はなかった。
左右から、中衛部隊が走ってきた。
本来の全身甲冑ではない。
鎧は軽装。
手には片手剣。
あるいは、ポールハンマー。
――ヤバい。
俺は直感した。
ポールハンマーは、
鎧の関節を歪ませる武器だ。
――クソッ!機動力潰しか!
意図は読めた。
だが――もう遅かった。
斬りかかってきた。
殴られた。
そう思った次の瞬間――
もう、いない。
斬っては走り、
殴っては消える。
武器は、
確実に膝と肘しか狙っていない。
鎧を歪ませた。
関節が歪んだ鎧は、機動力を奪う。
結果――
隊列が、乱れる。
前を向いていたはずの兵が、
後ろを気にし始める。
「何をしている! 前を見ろ!」
叫びながら、
俺自身が周囲を見回していることに気づいた。
――どこにいる?
敵が、見えない。
次の瞬間——
ドン、と衝撃が来た。
長槍――いや、木槍だ。
しかも三角形の陣形で、
ひたすら一点を攻める。
突くのではない。
殴るのでもない。
押される。
身体ごと。
地面ごと。
戦線ごと。
「なんだ……これは……!?」
陣形が意味をなさなくなる。
どこが前で、どこが後ろか、分からない。
俺は歯を食いしばりながら、思っていた。
――理解できない。
だが。
胸の奥が、妙に熱い。
――こんな感覚、いつぶりだ?
勝つか負けるか。
生きるか死ぬか。
その瀬戸際でしか感じない――
あの高揚感。
副官の顔が、一瞬よぎる。
昨日まで、
苛立ちと不安を隠さなかったあいつが……
今頃、どんな顔でこの光景を見ているのか。
――いや。
違う。
これは、あいつの戦いじゃない。
”俺達”の知らない戦い方だ。
そして気づく。
俺は今——
「どう戦うか」ではなく、
「どう崩されているか」を考えている。
完全に、主導権を握られている。
それなのに――
笑いそうになる自分がいた。
――なるほどな、リーフ。
――こんなものを見せられて。
――否定できるわけがない。
木剣を握り直し、俺は前を見る。
敵は見えない。
だが、戦場は確かに生きている。
そして、確信した。
この模擬戦は、
勝ち負けの問題じゃない。
――俺たちは、もう戻れない。
今までのやり方には。
風が吹き抜ける荒野で、
俺は久しぶりに、心から戦っていた。




