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異世界理学療法士 戦わずに勝つ“構造無双” 〜飯と制度で世界をひっくり返す〜  作者: ぺぇさん
【第二部】依存しない構造を作る~号令のいらない部隊~
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【第2部】第16話 兆し

「……ふざけている!!」


執務室に、副官の声が響いた。


机の上の書類が震え、

陶器のカップがかすかに音を立てる。


「装備を外す訓練が、どこにありますか!

 剣も持たせず、跳べだの止まれだの――

 あれは遊びです!!」


部隊長は椅子に深く腰掛けたまま、

何も言わない。


副官は、歯を噛みしめたまま続ける。


「三ヶ月後には、定期模擬戦があるんですよ!

 知っていますよね!?」


一拍。


「……第八部隊は、いつも最下位です」


その声は、先ほどより低かった。


「補給部隊扱い。

 前線に出る事もない。

 評価も上がらない……」


拳が、ぎゅっと握られる。


「このままでは……

 いつまで経っても、変われない」


部隊長は、ゆっくりと息を吐いた。


「……知っている」


副官が顔を上げる。


「俺も、どうにかしたいと思っている」


部隊長は目を伏せた。


「だがな……俺はもういい歳だ。

 出世も、正直、半ば諦めている」


副官の目が揺れる。


「だが、お前は違う。まだ先がある。

 この部隊を、お前が率いる未来もある」


静かに、しかし確かに言った。


「だからこそ――

 今までのやり方を、変えねばならない」


副官は一歩前に出た。


「だからって!!

 あいつのやり方が通用する保証が、

 どこにありますか!!」


その時。


「……ならさ」


執務室の端に立っていた俺が、口を開いた。


二人の視線が集まる。


「副官。近いうちに模擬戦をやってみたらいい」


「……は?」


「部隊長は、今までのやり方で。

 副官は、これからのやり方で」


俺は肩をすくめた。


「俺は副官の補佐につく。

 現場で確かめよう」


沈黙。


副官はしばらく俺を睨んでいた。


「……負けたら?」


「その時は、俺の責任だ」


即答だった。


部隊長が、ふっと笑う。


「いい提案だな」


副官は唇を噛み――

やがて、低く言った。


「……分かりました」


その声には、まだ怒りが残っている。

だが、逃げる色はなかった。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇



翌日——


訓練場には、五十名の兵が集められていた。


理由は告げていない。

基準も言っていない。


ただ、名前を呼んだだけだ。


「……で?」


副官が小声で聞く。


「何をする気だ?」


「話すだけだ」


「……話す?」


俺は兵たちの前に立つ。


「いいか。今日は訓練じゃない」


ざわつく。


「説明だ」


兵たちの表情が、わずかに緩む。


「戦場ではな――

 前に出る奴がいる。

 回す奴がいる。

 終わらせる奴がいる」


俺は地面に三本の線を引く。


「全員が、全部やる必要はない」


兵たちの視線が、自然と線に集まる。


「止めるのが得意な奴がいる。

 動き続けられる奴がいる。

 一撃に集中できる奴がいる」


副官が腕を組む。


「……それで?」


「役割を、はっきりさせる」


俺は一人の兵を見る。


「お前。押し負けない自信あるだろ?」


「……はい」


「だから、前衛だ」


別の兵を見る。


「お前。昨日、合図に敏感だったよな?」


「はい」


「だから、中衛」


さらに一人。


「一撃必殺、大好きだろ?」


「……好きです」


「それに、強い一撃出す時――

 一度、腰を沈める癖があったよな?」


「たぶん……そうです」


「だから、後衛」


兵たちは戸惑いながらも思う。


『ちゃんと見てくれている』


誰も、戦術の話をしていない。

誰も、剣の話をしていない。

誰も、否定されていない。


だが――


全員が、自然と配置についた。


一人ひとりの個性を理解し、

フィードバックする。


烏合の衆であればあるほど、

それだけで信頼は生まれる。


副官は小さく呟いた。


「……流れが、出来ている」


『得意だろ?』

『好きだろ?』

『上手かった』


簡単な言葉だ。


だが――


配置された兵の顔は、

どこか生き生きしていた。


「……なぁ」


副官が小声で言う。


「これ……上手くいけば……」


「さぁな」


俺はわざと曖昧に答える。


「やってみないと分からない」


副官は兵たちを見渡した。


今まで評価されなかった者。

遅いと言われていた者。

力がないと切られていた者。


だが今は――


「……悪くない」


その呟きは、誰にも聞こえなかった。


だが。


副官の胸の奥で、

確かに何かが――動き始めていた。


部隊長との模擬戦は、まだ先だ。


だが、すでに……


勝負は、始まっていた。



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