第2話 魔法より先に、腰が逝く
異世界に来て、まだ数分。
だが、すでに分かっていたことがある。
――このまま魔法を撃ち続けたら……
――確実に腰を壊す。
さっき撃ったファイアーボールは初級魔法だ。
それで、あの反動。
ということは――
中級、上級、極大魔法……。
順当にいけば、魔王より先に、
俺の椎間板が限界を迎える。
俺は静かに女神を見た。
「女神さん」
「はいはい?」
「身体強化系の魔法ってあるのか?」
女神は少し考えてから、にこっと笑った。
「ありますよ♡
身体強化魔法ですね!」
よし。
最低限、生き延びる道具はある。
「それください」
「よろしいですよ。他にはありますか?」
――いや、待て……。
一瞬、思考が止まった。
異世界ものは、だいたい詠唱が重い。
しかも多重詠唱は、取得難度も高い仕様が多い。
俺は慎重に聞いた。
「ちなみに、この世界って……
二重詠唱、できるのか?」
女神の視線が泳ぐ。
「あ、えぇーっと……」
――あ、これダメなやつだ。
設定がまだ現場に降りてきてない顔だ。
「じゃあ、魔法はレベルアップ制か?」
「はい!
経験を積めば新しい魔法は取得できます!」
――なるほど。
「ちなみに。
新しい魔法はその人の適性によります。
何が取得出来るかは、その時にならないと……」
――才能でドカン……は期待薄いってことか。
地道に積み上げる世界。
俺は悟った。
――一発逆転は、ないな。
魔法を増やすより、
一つを壊さず使い続ける方が合理的だ。
「分かった。
で、トレーニング施設は?」
「そのようなものはありません」
だとは思ったが……異世界、詰んでるな。
沈黙が落ちた。
女神が少し気まずそうに言う。
「あの……他には何かありますか?
出来る範囲ですけど……」
俺は少し考えた。
魔法はあとでいい。
身体も鍛えればいい。
だが――
環境は、自力で作るしかない。
「……身体強化も他の魔法も、今は必要ない」
「え?」
「地道にレベルアップで取得する」
「そう、ですか……」
「とりあえず――
金に困らないようにしてくれ」
女神が目を見開いた。
「金運……ですか?」
「あぁ。
環境は、自分で作る」
トレーニング器具は買える。
防具も揃えられる。
食事も管理できる。
筋力は、金で買える。
女神は小さくため息をついた。
「……分かりました。金運SSで」
(今まで、こんな奴いなかったぞ……ボソッ)
――? ……まぁいい。
こうして俺は、
魔王討伐の使命より先に、
生活基盤だけ整えて、
異世界に放り出された。
地面は硬い。
空気は重い。
腰は、まだ無事。
――悪くないスタートだ。




