第1話 魔法には、作用反作用があるらしい。そして吹き飛んだ。
最初に感じたのは、“重力”だった。
フワッとした感覚……。
そっと目を開けると、白い空間にいた。
――あぁ……よくあるやつか。
床は雲っぽく、
壁は存在せず、
やたら神々しい。
そして目の前には、
だいたい偉そうな存在が立っている。
「あなたは選ばれました」
――……異世界転移、テンプレ、了解。
理学療法士として十五年ほど生きてきたが、
まさか死後にまで“説明フェーズ”があるとは思わなかった。
「この世界では魔法が使えます。
あなたに魔法の力を授けます」
女神はそう言って、
手のひらに小さな火球を浮かべた。
――ファイアーボール? ……初級魔法か。
「では、試しに使ってみてください♡」
……嫌な予感がした。
だが、興味が無い訳でもない。
手を前に突き出す。
「……ファイアーボール」
――ドンッ!
次の瞬間、俺は後方に吹き飛んでいた。
背中から床(雲)に叩きつけられ、
肺の空気が全部抜ける。
「ぐっ……!」
女神が目を丸くする。
「あれ? おかしいですね?」
いや、おかしくない。
むしろ正しい。
俺は床に転がったまま、
冷静に結論を出していた。
――作用反作用だ。
ミサイルを撃てば、後方に推進力が生まれる。
火球を“射出”したなら、同じことが起きる。
魔法だろうが、
現象としてはエネルギーの移動だ。
「……なぁ、女神さん」
「はい?」
「これ、身体への反動、考慮してないだろ?」
女神はきょとんとした。
「え? 魔法は魔法ですし……」
――あぁ、ダメだ。
――こいつ、“えいっ♡”派だ。
俺は立ち上がり、
腰をさすりながら続けた。
「初級でこれなら、
極大魔法撃ったらどうなる?」
「えーっと……すごい威力です!」
「いや、俺がどうなるかの話なんだが……」
たぶん答えはこうだ。
消し飛ぶ。
「とりあえず! 魔法は与えました!
あなたの使命は、この世界の悪の根源、
魔王を倒すことです!
魔王を倒さないと、
この世界が終わってしまいます!!」
……いや。
こんな魔法使ってたら、
魔王より先に、俺の腰が終わる。
その瞬間、俺の中で決まった。
この世界で……
魔法使いとして生き延びるには、
才能でも、精神力でもない。
必要なのは――
広背筋と大殿筋。
ローブはいらない。
杖もいらない。
いるのは、
衝撃を受け止める背中と、
踏ん張る足腰。
そして——
体を守る設計だ。
俺は女神に向かって言った。
「魔王討伐は後でいいです。
まず、トレーニング施設をください」
女神は不満そうだった。
「あなた、今、私は、
魔王討伐を使命と言いました。
……何のために召喚したと思ってるんですか?」
俺は即答した。
「その前に俺の腰が逝く」
こうして俺の異世界生活は、
魔法の修行ではなく、
筋トレと動作設計から始まった。
魔王?
知らん。
腰は一生モノだ。




