【第2部】第7話 拘束
城門をくぐった瞬間、空気が変わった。
兵の数。
視線の数。
そして――判断の速さ。
「止まれ」
短い号令。
縄は解かれない。
むしろ、
後ろに回された手首に、もう一本追加される。
「牢に入れる」
部隊長の声は、淡々としていた。
「刑ではない。
確認が終わるまでの拘束だ」
「……妥当だな」
そう答えると、
周囲の兵がわずかに眉を動かした。
普通は、反発する。
あるいは、言い訳をする。
だが、俺は違った。
――逃げる理由が、まだない。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
石造りの通路を進む。
湿った空気。
血と鉄の匂い。
「ここだ」
鉄格子が開き、押し込まれる。
中は、広くも狭くもない。
“人を入れておく”ためだけの空間。
「しばらく、そこで待て」
「飯は?」
「出る」
「水は?」
「出る」
最低限は、保証されるらしい。
部隊長は、去り際に振り返った。
「――名だ」
「……?」
「名が無いままでは、話が進まん」
沈黙。
確かに、その通りだ。
だが――
この世界で、
自分の名を差し出す危険性が分からない。
「……色々、あるんだろ?」
部隊長は、こちらを見据えたまま言った。
「過去も、立場も、事情も……」
一拍。
「とりあえずだ」
少し、口角を上げる。
「仮の名を使え。呼びやすいのがいい」
「……命名か?」
「そうなるな」
檻の外で、兵たちが静かに息を詰める。
名を与える。
それは、この国では――
“管理下に置く”という意味でもある。
部隊長は、少し考えてから言った。
「軽すぎず、重すぎず……
流れ者で、土地に縛られない……」
視線が、俺に戻る。
「――リーフ」
――葉、か?
「風に流される。
だが、根は持てる」
――葉じゃん。
でも、悪くない。
むしろ――
今の俺には、ちょうどいい。
「了解だ」
そう答えると、部隊長は満足そうに頷いた。
「では、リーフ」
「拘束は続く。
だが、話は聞く」
鉄格子が閉まる。
カン、と乾いた音。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――名前を、もらった。
この世界で、初めて。
そして同時に。
俺はまだ、
魔王のことを思い出していなかった。
思い出す気も、なかった。




