【第2部】第3話 火を点けた理由
気の向くままに歩いていた。
森を抜け、丘を越え、
道らしきものを見つけては、また歩く。
途中で立札のようなものを見つけたが、
深く考えず、矢印の方へ進んだ。
しばらく進んだ先で、空気が変わった。
風が止む。
森の匂いに、別のものが混じる。
鉄と、焦げと、腐敗の気配。
嫌な予感がして、足を速める。
木々が途切れ、
視界が開けた瞬間――それは現れた。
壊れた村だった。
家屋は倒れ、屋根は潰れ、壁は裂かれている。
焼け焦げた木材。
散乱した生活道具。
そして、地面に横たわる人の形。
「……魔物、じゃないな」
一目で分かった。
爪や牙で荒らされた痕跡はある。
だが、それだけじゃない。
切り裂かれた跡。
打ち砕かれた骨。
奪われたもの。
これは――人の手によるものだ。
襲撃。略奪。
理由は分からないが、少なくとも“事故”ではない。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
立ち尽くす時間は、そう長くはなかった。
感情が湧き上がる前に、身体が動いた。
まず、生存者がいないか確認する。
次に、周囲の安全。
そして――遺体。
文字通り、全滅。壊滅。
遺体の数は少なくない。
子供も、年寄りもいる。
遺体を前に、ふと頭をよぎる。
――疫病、という線もあるか。
争った形跡はある。
コレラもペストも…疫病による暴動はあった。
――ケースとしては、有りうるな……
だが、
全員が同時に死んだ理由としては、
それだけでは説明がつかない部分もある。
断定はしない。
だが、可能性はある。
――最悪の想定は、しておくか。
それに……
一歩、遺体から距離を取る。
それでも、視線は離れなかった。
「……放置は、無理か」
誰に言うでもなく、呟いた。
埋める道具は持っていない。
土を掘るには、時間も体力も足りない。
なら、選択肢は一つだった。
木材を集め、遺体を一か所に集める。
倒壊した家の柱を引き抜き、乾いた枝を重ねる。
作業は無言で進んだ。
効率を考え、順序を決め、淡々と。
感傷に浸れないように、ただ体を動かす。
――考えるより、動いた方が早い。
準備が整い、火を点ける。
炎はすぐに広がり、木を舐め、人を包む。
原因が疫病では無かったとしても、
放置する事で、疫病を発生させる可能性はある……
匂いが立ち上る。
人が焼ける匂い――
思わず鼻をつくその臭いに、胸の奥がざわつく。
「処理するしかない、よな……」
俺は小さく呟いた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
炎を見つめながら、ふと周囲の気配に気づく。
森の奥——
草むら――
暗がりの向こう――
視線が、増えている。
火と匂いに引き寄せられた――魔物だ。
「……来るよな、そりゃ」
俺は炎を背に、向かい合う。
数は、一つじゃない。
――ここから先は、戦いになるな。
そう理解しながらも、俺は炎の側を離れない。
「……せめて、燃え尽きるまでは」
火葬は、まだ終わっていなかった。
――燃え尽きるまでが、火葬だ。
この行動が――
後で問題になるとも知らずに。




