【第2部】第1話 町の外へ
ギルドに戻ると、
思ったより話は早かった。
討伐証明。
捕縛した山賊。
そして、熊。
受付嬢は書類に目を落とし、
淡々と確認する。
「山賊の共同討伐を認可します。
功績を認め、ランクを――」
顔を上げる。
「Dランクへ昇格です」
拍子抜けするほど、
あっさりしていた。
剣士が腕を組み、
斥候が口笛を吹く。
「へぇ……早かったな」
ヒーラーは小さく笑った。
「これで、正式に一人前ね」
一人前。
その言葉に、
妙な実感はなかった。
ただ――
生きて戻った。
それだけだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
その夜。
打ち上げは、
俺の行きつけ。
……と言っても。
この老夫婦の店以外、
居場所を知らん。
「こんな店、あったのか」
剣士が言う。
「美味いぞ、ここ」
中に入ると、
いつもの老夫婦。
素材は丁寧に下処理されている。
味付けは基本的に塩。
だが、香草の組み合わせが、
きちんと考えられている。
老夫婦の人柄、だろうな。
そんな店は、
不思議と落ち着く。
……でも、酒は薄い。
「理学療法士、と言ってましたっけ?」
ヒーラーが聞く。
「それ、何ですの?」
「身体を治す仕事だ」
「治癒魔法とは違いますの?」
「違うな」
少しだけ考えてから答える。
「壊れないように整える」
老夫婦が興味深そうに頷く。
「変わった職だねぇ」
そりゃそうだ。
故障は放置される世界。
この世界で――
理学療法士なんて職業、
食っていけない。
なにより――
魔法使いより、
よほど地味だ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
酒が回り、
話題が落ち着いた頃。
俺は、
ふと思い出したことを口にした。
「なぁ、魔法って……
威力はどうやって調整してるんだ?」
斥候が首をかしげる。
「普通は詠唱じゃないのか?」
「えぇ。言葉を重ねて、
威力をコントロールします」
ヒーラーが補足する。
――なるほど。
詠唱が、
可変スイッチか。
「じゃあ……」
俺は、杯を見つめながら考える。
「無詠唱の俺は、
0か100ってことか」
一瞬、沈黙。
剣士が低く笑った。
「極端だな」
「でも、
分かる気がする……だって、」
ヒーラーが
ちらっと俺を見る。
「あの威力、ですもの」
「でもよー、
あの打ち方はないだろ?」
「あの打ち方にも意味があるのか?」
「まぁ……
0・100の俺なりのコントロール法だ」
威力コントロール。
魔法の作用反作用。
だから――
魔法の射出を、
スポーツ動作に当てはめる。
「案外、正解かもな」
独り言のように呟く。
この世界の魔法も、
身体操作に落とし込める。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
店を出た後。
斥候が言った。
「これから、どうするんだ?」
剣士も、ヒーラーも、
俺を見る。
「パーティ、組まないか?」
誘いは、ありがたい。
だが――
「やめとく」
即答した。
「一人が気楽だ。それに……」
少しだけ、言葉を選ぶ。
「どこかでまた会ったら、
その時に声をかけてくれ」
斥候が肩をすくめる。
「変わってんな」
「否定はしない」
ヒーラーは、
少し残念そうに笑った。
「無事でね」
「ああ。お互いに」
それで、十分だった。
宿屋に戻り、
天井を見上げる。
静かだ。
久しぶりに、
何も考えず眠れそうだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
翌朝。
ギルドでマジックバッグを買い、
荷物を詰める。
まだ余りある金。
最低限の荷物。
食料。
そして――
知識。
準備は、
それだけでいい。
町の門をくぐる。
振り返らない。
「せっかくだから……」
誰に言うでもなく、呟く。
「異世界、堪能するか」
目的は、ない。
使命も、ない。
魔王?
――知らん。
当てもなく、
足を進める。
町の外は、
広かった。
世界は、
思っていたより自由だった。
第二部、開始。
――世界への“適応”が、
ここから始まる。
ここから第二部です。
第一部では「壊れない身体」の話でしたが、
ここからは「壊れない仕組み」の話になります。
個人ではなく、組織や社会をどう動かすのか。
少しずつスケールが変わっていきます。




