第18話 当たらない前提
しばらく森を進む。
途中――
斥候が、低く息を吐いた。
「……あったな」
木々の隙間。
簡素な掘っ立て小屋が、森の奥にひっそりと建っている。
壁は粗い木板。
屋根も、急ごしらえ。
山賊のアジト――
間違いない。
「見張りは二人。中に気配、五……いや、六か」
斥候の声は、淡々としている。
剣士が、小さく頷いた。
「正面は俺が引く。逃げ道を潰す」
視線が、俺に向く。
「魔法で、撹乱できるか?」
一瞬、考える。
撹乱なら、別に当てる必要はない。
距離もあるし、ここから遮蔽物も少ない。
というか――
――どうせ、当たらないし。
だからこそ。
「問題ない」
剣士が一瞬、嫌な予感の顔をした。
「……加減できるか?」
「どうせ当たらん。問題はない」
俺は一歩下がる。
助走。
バレーのアタック動作――
跳ぶ。
身体を反らし、肩甲帯を解放する。
打点は――できるだけ、高く。
「ファイアーボール」
ドンッ――
次の瞬間。
……掘っ立て小屋が、爆ぜた。
壁が吹き飛び、
屋根が宙を舞い、
木片が、雨のように降る。
一瞬の静寂。
「…………」
「…………」
――当たっちまった……
斥候が、口を開けたまま固まっている。
剣士は、ゆっくりと俺を見る。
「……おい」
ヒーラーが、珍しく声を荒げた。
「威力、強すぎ!!
魔力、もっと抑えて!!」
俺は、目を瞬かせる。
「いや……当たるとは思わなかった……」
そして、遅れて疑問が浮かぶ。
――ん?
――威力を、抑える?
ファイアーボールで、威力の調整は出来なかった。
アタック動作は、
重力と位置エネルギーを加速力に変える。
だから強いと思っていた。
キック動作は、加速力と遠心力。
だからコントロールが難しい。
――違う、のか?
その時だった。
「うわっ!」
「出てきたぞ!!」
爆散した小屋から、山賊たちが雪崩れるように飛び出してくる。
斥候が、即座に動いた。
死角へ回り、足を払う。
混乱したところを、剣士が正面から叩く。
連携は、見事だった。
俺は――動かない。
勝負は、見えている。
だから、見る。
剣士の踏み込み。
斥候の足取り。
武器の使い方。
体重移動。
――……ん?
「……違くない、か?」
剣士の武器は、片手剣。
でも。
――なんが、違う。
目を細め、動きを見る。
無駄がある。
力が、逃げている。
「……」
俺は黙ったまま、
その違和感を、頭の奥に留めた。
留めざるを得ない状況に変わった。
崩れた小屋の奥から、
ゆっくりと影が立ち上がった。




